2018.09.05
ママのままアンバサダーの板井善江です。近頃、テレビや新聞で頻繁に目にするワードのひとつが「働き方改革」ではないでしょうか。メディアでも、様々な企業が社員の「働き方」に着目した取り組みを取り上げており、事例を紹介する新聞記事やその様子を紹介するニュースを目にする機会が増えてきているように思います。そこで今回、この「働き方改革」というテーマで、大分県の取り組みや県内企業の取り組み、ママのまま読者の意識を調査してきました。
訪れたのは、大分大学の挾間キャンパス。
大分大学では平成22年に「女性研究者サポート室」を設置。
平成25年に「男女共同参画推進室」に代わり、平成29年4月に現在の「ダイバーシティ推進本部」が設置され、女性研究者の活躍に向け、様々な取り組みがなされています。
今回、大分大学副学長(ダイバーシティ担当)であり、男女共同参画推進室長 医学部教授の松浦恵子先生にお会いしてきました。
お会いしたその日は、医学科と看護学科の1年生の学生に向けた「医療人のための男女共同参画」という年に1度の講義のある日。
「ダイバーシティ」についても、学生へお話をする日というタイミングでした。
この「ダイバーシティ」という言葉。
先生にその解釈を伺うと
ダイバーシティとは多様性。
多様性には目に見える多様性と目に見えない多様性(生い立ちや価値観などさまざまなものからなる)があることを知ることが第1段階、そんなさまざまな多様性をひっくるめて「お互いを認め合うこと」が第2段階、さらに「お互いの違いを認め合い仲間に入れる」「認めつつお互いの違いを生かしながら刺激しあったり高めあったりし能力を生かしあうこと」が第3段階にある。
とのご説明。
大学で学び始めの1年生から、将来に向けた「男女共同参画」をテーマにした講義を受けられる環境は素晴らしいと感じます。
松浦先生は、男女共同参画推進室長の初代室長に就任し、様々な取り組みをおこなっています。
その内容を伺うと、女性研究者がより活躍できるため、大きく分けて「環境整備」と「意識改革」、そしてそれらを踏まえた「情報発信」を行っていることがわかりました。
まず「環境整備」として取り組まれてきたのは
・小さな子どもがいる研究者には、その研究を補助する人を一人雇用するという支援活動「研究サポーター事業」(平成22年から実施)
・研究と子育ての両立を増やせるよう、旦野原キャンパスには保育所を検討
また病児保育のなかった挾間キャンパスには病児保育を整備
・女性研究者の割合を増やすためのポジティブアクションを実行
・女性の上位職を増やす取り組み
・女性が学会に行く費用の支援
という充実した内容。
次に「意識改革」としては、
・管理職の方々や女性研究者、中間層の意識改革のため各層に合わせた専門家によるセミナーの実施
管理職の方々を対象としたセミナーでは、女性研究者の研究と子育てや家庭との両立支援や、女性研究者を増やすことによって大学の活力となるなど大学運営へのメリットなどを専門家の先生にお話をしていただく機会を作るというもので、実際に上司の意識改革によって「育休を取りやすくなった」「(子どもがいる場合)早く帰宅しやすくなった」などの効果が出ているとのことでした。
また、女性の意識改革に向けては、がんばって研究を続けることの意味やメリット、上位職のメリットなどを経験者からお話されているようです。
もう一つ、「情報発信」の取り組みは、大きく分けて「中高生向け」「学内向け」「企業向け」があります。
中高生向けの取り組みは、
・中学や高校へ出向いての出前講義や大学生を同行した座談会を実施
・研究の面白さ、就職に有利な実情、理工系の面白さや魅力、仕事などについて
高1の夏までに高校生やその保護者へ直接お話をする形での情報提供
以上の内容は、比率の低い工学部の女性の割合を増やす、裾野を広げる目的で行っているそうです。
学内向けの取り組みは
・大学の両立支援等の取り組みと、実際に両立しがんばっている研究者などのロールモデルを印刷物やホームページで紹介
・「男女共同参画」の講義(1年生から3年生は選択科目、4年生ではケーススタディ)
「男女共同参画」や「ダイバーシティ」という概念や、大学で学んだあとに実際どのような活躍をしているのか、どのような働き方をしているのかといったロールモデルの発信は、学生が将来を具体的にイメージする大きな手助けになっていると思います。
企業向けの取り組みは
・企業と一緒にダイバーシティセミナーの実施や企業訪問
・企業への意識調査を実施
この取り組みは、ダイバーシティを行わないと女性が県内にとどまらないという危機感を感じるものでもあるといいます。
「環境整備」「意識改革」それらを踏まえた「情報発信」。
多方面にわたり時間を費やしながら活動の中心となって進めてこられた松浦先生は相当なご尽力があったと思います。
実際、こうやって取り組みを行うにあたり、活動へむけて大きな動機となったご自身の経験について伺うと、先生が子育てに忙しい時期は研究者でありながら両立している人が少なく、ロールモデルや仲間がいなかったので、女性が働き続けるためのネットワークづくりやロールモデル作りをすることの必要性を感じてきたそうです。
先生の子育て時期は、家族の全面的な協力があったということ、さらにファミリーサポートや学童保育など「使えるものはすべて使う」という思いでその時期を乗り切ってこられたということでした。
先生からは「困っていることは言っていいと思う」というストレートな言葉もありました。
子育てをしながら働き続けることは、モチベーションを持ち続けることや、母性との葛藤など、周りからは決して目に見えない悩みも伴うことでもあります。
困ったときには、自分からそのことを周りに伝え改善を試みることも大切だということだと思います。
そんな松浦先生は、他にも女性医療人のキャリア支援センター副センタ―長も兼任されています。
医療の現場には、医師 看護師 薬剤師 コメディカル(医療従事者)があり、当直など独特の課題がありその課題にむけても活動を行っています。
このように「男女共同参画」の活動を進めていくうえで、アゲインストの風はなかったのでしょうか。
伺ってみると実際のところ「独身女性や男性の理解がないのはなぜ?」といった課題や「支援を受けている女性はあまえている」という男性の声も聞こえてきたそうです。
そういった課題に向けては「育児は女性だけのことではない」ということを言い続けることで「パパの会」の発足につなげたり、「男女がお互い歩み寄ること」の大切さや、子育て未経験の若い世代には「(今後の)自分たちの問題でもある」という事実を伝え続けることで、育児を女性だけの問題にしない意識作りにも努め、ひとつひとつの課題に丁寧に向き合ってきて今があることがわかりました。
人の意識を変えていくこと。
それまでの常識を変えていくこと。
「働き方改革」「ダイバーシティ」「女性活躍推進」といった、現在社会に必要でありながら新しい概念を含むもの。
そのために発想や行動を多くの人が変えていくことは簡単なことではないかもしれません。
また、当事者にならないと実感しない課題もあります。
当事者であってもそれまでの価値観や経験の有無によっては、課題への温度差が生じることもあります。
さまざまな意見を受け入れつつも、向かうべき方向へ進めるよう丁寧な歩みが不可欠であると知りました。
最後に松浦先生へ「女性が安心して活躍できる社会とは」という質問をすると、
「女性、男性など意識しなくてすむ社会」
「(先生のような)活動をする人がいなくてすむ社会」
という返答が。
さらに「どんなライフステージでどんな選択肢があっても、自分がやりたいように選択ができ、自分が思っているより一歩上のステージへ上れる社会」というメッセージももらいました。
ダイバーシティはまさに生きている社会そのもの。
例えば女性だけでなく男性も育休をとることで深まる相互理解、
様々な現場の障害を取り払い、役割分担意識を取り払うことでより働きやすい環境が実現できると言います。
先生は常々「辞めないで続けましょう。辞めないから戻ってきたときに同じポジションがある。続けることでモチベーションを保てる。やめて戻ってくる方が大変だよ」ということを後輩へも伝えているようです。
働き続けることは大変なことでもありますが、だからこそ尊いことでもあると感じます。
「支援がないことで辞めないで。受けられる支援を見つけて、続ける努力をしてほしい。そのためにもイキイキがんばっているロールモデルがいるところを選びなさい、と言っています」という先生の言葉は、働き続けるために簡単にあきらめなかった先生の努力と信念が感じられる、柔らかくも力のこもった後輩たちへのメッセージが込められていると感じます。
今回、大学での取り組みについて取材をしてきましたが、松浦先生のようなパイオニア的な存在の方が新しい取り組みをすることで、新しい発想や、既成概念の変化がもたらされるように思います。
実際のところ、人の意識を変えることが最も難しく、手間と時間のかかることだと思いますが、「研究を続ける」という姿勢を貫きながら上位職へ挑み、ご自身の経験を糧に環境整備や周囲の意識改革を進めるためのアクションを行ってこられた先生と、大学の取り組みは、より多くの企業や経営者、男女問わず働く多くの方々にぜひ知っていただきたいと思います。
詳しくはこちらもご覧ください。
http://www.fab.oita-u.ac.jp/