2018.09.07
ママのままアンバサダーの板井善江です。近頃、テレビや新聞で頻繁に目にするワードのひとつが「働き方改革」ではないでしょうか。メディアでも、様々な企業が社員の「働き方」に着目した取り組みを取り上げており、事例を紹介する新聞記事やその様子を紹介するニュースを目にする機会が増えてきているように思います。そこで今回、この「働き方改革」というテーマで、大分県の取り組みや県内企業の取り組み、ママのまま読者の意識を調査してきました。
シリーズ三回目は「働き方改革」を実際に実践している企業への取材です。
これまで「働き方改革」の必要性や、ダイバーシティに向け活動をしている大分大学の取り組みを紹介してきましたが、今回はリアルな職場取材。
お話を伺ったのは、大分信用金庫 総務部 課長代理 大場竜介さんです。
大分信用金庫では10年以上前から女性の育休取得がはじまり、現在の取得率は100%。
この数字から、出産後も女性の働く意欲の高さと同時に、女性の働きやすさが見て取れます。
実際どのような取り組みをされているのでしょうか。
まず「女性活躍推進」について具体的な取り組みを伺うと、平成29年からスタートした画期的な活動があることがわかりました。
それは「女性活躍推進委員会」というもの。
委員会は、その名の通り構成はすべて女性。
入庫3年目から役席まで、それぞれ入庫歴やエリアの違う女性13名で構成されており、委員長は現在1名いる女性支店長が就任しています。
委員会発足の背景には「女性の目線で女性活躍の障害になっていることとその解決策を考える」という考えがあったといいます。
この委員会は、委員のメンバーで様々な意見を出し合う場となっており、改善したほうが良い意見が出た事柄に対しては、いままでなぜそれができなかったのか、ということを議論の出発点として協議しています。
話し合いの中で、例えば「融資」の仕事についての意見などが出されます。
業務が煩雑な融資の仕事はそれまで男性中心の仕事でしたが、社会全体の「女性活躍推進」の波に乗って、大分信用金庫でも女性が融資の仕事を求められるようになってきました。
しかし、これまであまり経験のない融資の仕事に対し、当時女性職員にはとまどいが生じていたといいます。
組織的にはこれからを考えると融資に女性が加わらないと難しくなる、ということをふまえたうえで、その変革の前に、なぜこれまで女性ができなかったのか、どういうことを取り除いたら女性ができるようになるのかを考えることが先決、と委員会の中で議論を進めたそうです。
平成29年4月に委員会を発足し、任期1年で委員は入れ替えています。
議題は会社から与えられるのではなく、あくまでも委員の女性たちから生まれるもので、ブレーンストーミングを繰り返しながら、改善したいテーマが決まります。
これまで委員会で決定し実施した内容は
・「制服の改善」と「役席と渉外担当者は制服からスーツ着用へ」
女性職員が着用している「制服」をどのようにしたら動きやすく機能的なものになるかといったことや、それまですべての女性が着用していた制服を、役職がついたら制服ではなくスーツを着用。また渉外担当者も動きやすい機能的なスーツ着用へ変更。
実施後、女性職員全員からアンケートをとりその結果をふまえて再度委員会で協議。
委員会だけでなくより多くの女性職員の声をきいて改善する形をとりました。
賛否両論あったようですが、制服からスーツへ変えたことでお客様から見ても役席とわかりやすくなった、スーツを着用することでいい意味で責任感が芽生えたという感想や、若手の女性職員にとっては「早くスーツが着たい」という憧れを抱いた職員もいるようです。
・結果ではなくプロセスを重視したロールプレイング大会の実施
委員会主催のロールプレイング大会を実施。
最初は人前でロールプレイングするのが嫌、なぜしなければならないのかといった反対意見も出ましたが、大会後の参加者の感想には、練習を経て大会を経験した後の現場では、実際にスキルが上がったことを実感した、成約に結びついた事例もあった、セールストークに詰まらなくなったという声があり成果を実感したようです。
ロールプレイング大会では、プロセスが大事という考えに基づき、点数をつけず、順位もつけないという形式で実施しました。
良かった点だけほめて、改善すべき点は教えてあげる、そんな大会。
会社からは順位をつけた方が良いのでは?という意見があったようですが、委員会ではあくまで点数や順位をつけないことを重視していました。
結果だけではなくプロセスが大事という考え。
これはまさに女性の発想ではないかと思います。
会社からの意見は出たものの、委員会の意見を通して実施。
委員会の意見をつぶさない、委員会で出た意見をひっくり返さないという姿勢。
委員会での意見が実際に通ることや実現すること、年齢に関係なく意見が言える場所があることが委員のモチベーション向上へつながっているのだと思います。
この大会は、会社からではなく委員会からの声で実施されたもので、まさに女性の意識の高まりを感じるものであったと大場さんは言います。
最初は抵抗を感じていた女性職員も、実際に大会を経験することで、結果的に自身の成長や変化に気付くことができ、大会の意義を理解してくれたのではないかと期待しています。
このような入庫歴に関係なく意見する場があったり、決議した内容を会社として実施するという徹底したスタンス。
「女性活躍推進委員会」の活動によって、実際の女性職員の意識の変化についてうかがうと、こんなお話が聞けました。
「それまで業務の成果を表す営業のポイントを渉外担当者にしか出していなかったのを、窓口も内部事務の女性も営業全員のポイントが出るようにしたことで、全員営業のマインドが持てているように感じ、やらなきゃという空気に変わってきたように思います。
男女問わず、役割問わず積極的にかかわって『みんなでがんばろう』という雰囲気の追い風に、この委員会の存在が影響しているのかもしれません。」
委員会のなかでは、ネガティブな意見が出ることもあると言います。
そんな意見が多くなってきたときには、総務部から会社の考えをあらためて話す場を設け、委員会の意義を確認し、ポジティブな軌道への修正をはかるように努めているそうです。
大場さんは言います。
「仮にネガティブな意見が出ることがあってもいい。委員会は心にたまった思いをはき出して、それをどうしたら改善できるのかを一緒に考える場ですから。とはいえ、委員会の活動はまだ始まったばかり。活動に対していろんな声があるのは確かですが、参加した人からは異口同音に『参加してよかった』という声があがっているので、経験者だからわかる委員会の活動の意味や意義を、今後も繋げていきたいと思います。」
「女性活躍」や女性だけの委員会の立ち上げで、最初は組織内の女性からもとまどいや「なぜ女性だけ委員会がたちあがるのか」といった声も出てきてようですが、そんな時は主管である総務部から委員会の趣旨を根気強く伝えていき、このあたらしい動きも次第に浸透しつつあるとのこと。
「女性職員がどうしたらもっとはじけられるのか、どうしたらもっと飛び出せるのか。」
という思いを大切に、委員会は女性たちの思いをパワーに変換する場にもなっています。
委員1年の任期を終え、会社の思いや委員会での活動を通して建設的な発想への転換を学んだメンバーが、現場におりて委員で学んだマインドで職務に取り組むことで、当人だけでなく周りにもその空気が広がっていくことも期待されています。
今後は他にも「女性活躍推進委員会」から「事務管理見直し委員会」へ提言を行い、事務のやり方などを討議することも検討しているといいます。
多方面で業務などの見直しを検討する場が生まれてくることが期待できそうです。
現在の育休取得率100%について、そのための工夫や子どもの発熱など急なお休みを取りたい時などはどのようにしているのでしょうか。
「金融の仕事は目まぐるしく変わっていくので、育休で1年間現場を離れる女性には、定期的に情報を総務部から提供することも必要と考えています。これも女性からのリクエストによるものです。
職場復帰する際には、配属される支店は(フォローしやすいよう)、保育園から近い場所という点に配慮し、仮に子どもが熱を出してもすぐに帰れるような配慮をしています。
また人数が少ない支店では、エリアごとに、近くの支店間で女性の人数を調整し、人員を応援し合ったり、本部からもお休みを取りやすいよう支援したりなどの工夫をしています。」
「出産は女性にしかできないことなので、育休は取って当たり前のようになってほしい」と大場さん。
女性も育休明けの経験を踏むことで経験者は応援できる人になってきていて、自然とフォローしあう空気が職場にはあるそうです。
ほかにも大分信用金庫では、職員やリーダーの意識向上のため、入庫歴に合わせてフォローアップ研修やキャリアアップ研修を実施し、振り返りやキャリアビジョン、自分の得意分野は何かなどをあらためて確認したりキャリアやモチベーションについて考える機会を設けています。
これまで研修といえば、業務に直結するものでしたが、新しい研修を意識して取り入れたことで、自分への気付き、仕事は会社のためにするものではなく自分のためにするものであるという気付きがうまれ、好評を得ているようです。
様々な取り組みを行っていますが、そのきっかけは何だったのでしょうか。
それは「若手の離職率や学生の就職応募数の伸び悩み、業績に向き合ったときに、みんながいい意味で危機感を持ったこと、変えないと、変わらないといけないんだという自覚を持ったこと」だと言います。
いまが正に過渡期。やっていることが正しいかどうかわからないがトライ&エラーで取り組んでいるところです。
最後に、現在の取り組みについて今後の展望を伺うと、
「目指すところは『女性活躍』ではない『総活躍』。『女性活躍』と言っている時点でどこか遅れているのかなと思います。女性があこがれる対象が女性でなくてもよく『働き方改革』によってみんなが早く退社できるようになったら、女性は業績のいい男性職員にあこがれたっていいわけです。男性も女性支店長にあこがれてもいい。そして結果的に、『働き方改革』によってみんなが早く退社できるようになったらいいと思っています。」と大場さんは言います。
そうなるために「忙しい業務のなかでも、10分でもこうしたらもっと良くなるのではないかと意識することで変わっていくものだと思います。余裕を持たないとイノベーションは進みません。理想は女性活躍で終わらないことです」。
さらに「女性活躍推進」の本質を突く意見が…。
「女性の障害となっているものを取り除くということを進めていくと、女性の声を上に届きやすくするためには、女性の管理職が増えてくること。いままでの女性=専門職ではなく、管理職へチャレンジするような人が増えてくることです。しかし世にいう『女性活躍』には実を伴う改革が必要で、管理職シェアなどの数値目標だけにとらわれてはいけません。あくまでも現場の声を聞いて、現場の声に忠実に寄り添って、希望するステージで女性たちが活躍できる環境を整えていくこと、それが大切だと思います」。
現在大分信用金庫では、全体に占める女性の割合はほぼ半分。
この女性比率の高さは信用金庫業界の中でも高いそうです。
取材した中でわかった様々な取り組みや、新しい取り組みへの柔軟な姿勢がこの女性比率の高さの理由でもあるように感じました。
今回取材させていただいた大場さんは学生時代、信用金庫が中小企業支援をする番組を観て感銘しこの道に進んだそうで、就職活動時から明確なビジョンをもっていたようです。
現在の大分信用金庫での取り組みについてお話を伺う際にも、様々な取り組みに対してのビジョンと熱意が伝わってくるもので、これからの活動ももっと知りたくなりましたし、子育てしながら働く女性がもっと自然にもっと伸びやかに活躍できる姿が想像でき、女性として期待に胸膨らむ取材となりました。
大分信用金庫の「女性活躍推進委員会」での取り組みなどは、インスタグラムで発信していますのでぜひそちらもご覧ください。
https://www.instagram.com/oitashinkin/