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福祉の観点から見る子育てや社会の課題<br>女性活躍に向けて、私たちが今できること。

2021.07.20

福祉の観点から見る子育てや社会の課題
女性活躍に向けて、私たちが今できること。

現代社会は虐待やDV、引きこもり、など、さまざまな福祉の課題も多数見受けられます。今回は、臨床心理士として働き多くの女性を支援、現在は大分大学で教鞭を振るう飯田法子先生と、ママのままプロデューサーの佐藤宝恵の対談をお届けします。女性研究者のプライベートと研究の両立のコツ、代表的な研究内容、研究から浮き彫りになった子育てや社会の課題、女性活躍の実現に向けて今できることなど、働く女性の視点で展開していきます。

これまでを振り返りながら考える
女性のライフデザインのありかた

佐藤
飯田先生のこれまでのキャリアを教えてください。

飯田
わたしは、大分市出身で、京都女子大で児童学を専攻しました。実は今、ライフワークとなっている心理学関係を学ぶつもりは全くなかったんですよ。家庭科教員の資格が取れるということで、花嫁修業のために通っていました。京都女子大を目指したきっかけも、お嬢様に憧れていたという理由でした(笑)。しかし、そこで心の病を抱える子に向けたクリニックを運営していた先生との出会いがきっかけで、考えがガラッと変わりました。自閉症の研究をしながら仕事と家事・育児を両立しイキイキと輝く姿に憧れ、私も先生の背中を追って今の道へ進むことに。その方と出会っていなかったら、今の私はいないと思います。



佐藤
なるほど、大学時代に人生のロールモデルとなる人に出会い、目標が生まれて、その道を今に至るまで歩んでいるとは。大学卒業後は、すぐに臨床心理士の仕事を始めたのですか?

飯田
はじめはその先生のサポートをしていました。その後、系列大学附属高校のスクールカウンセラー兼家庭科の先生として雇われて、3年ほど学ばせていただきました。そこで26歳の頃に結婚。仕事を辞めて大分に帰ってきました。さまざまなご縁があり、児童相談所で働くことになり、臨床心理士の資格を取得しました。佐藤さんはどのような学生時代を過ごされたんですか?

佐藤
私の母は看護師だったのですが、当時は働く女性が圧倒的に少ない時代で。だから専業主婦のお母さんが羨ましいなと思っていました。今でこそ女性活躍を推進していますが、幼い頃は働く母親に対して憧れは少なかったです。子どもを「おかえり」と出迎える、そういうお母さんになりたいと思っていました。正直、キャリアアップについては消極的でしたね。しかし、実際に社会に出て、さまざまなことを乗り越える中で、踏み出せないママのために、私の経験や人脈を活かして何かお手伝いしたい」と思うようになりました。それが「ママのままプロジェクト」を立ち上げたきっかけです。

福祉の観点から見る子育てや社会の課題<br>女性活躍に向けて、私たちが今できること。

産むまで分からなかった
子育ての大変さや孤独感

佐藤
結婚後は、家事や子育ての時間も楽しい、充実しているという感覚でしたか?

飯田
私は“先生”というイメージがあるので、意外だと思われるかもしれませんが、働きながら1人で子育てするなんて、正直無理だと思っていました。佐伯にある主人の実家には、子どもの祖父母、曾祖母もいます。田舎の大家族のもとで子育てしたいと思っていたので、妊娠が決まった時には迷わず佐伯で暮らすことにしました。充実した生活でとても恵まれた環境でした。しかし、人生にはいろんなことが起こります。下の子が3歳を迎えると、曾祖母の介護が始まったりと、良いことばかりではありませんでしたね。

佐藤
妊娠したばかりの頃はインターネットが普及していなかったので、出産前は雑誌や育児書を見て、「赤ちゃんが寝ている間に紅茶でも飲みながら読書を…」と優雅な子育てのひとときを想像していました。不妊治療の末、待望の赤ちゃんが生まれ、「さぁいよいよゆっくり赤ちゃんと向き合う時間が来た」と思っていたのに、生まれた長男は、全く寝ない子で。毎日とにかく必死で、疲れ果てて、仕事復帰できるのかなと不安に感じていましたね。



飯田
保健師訪問やファミリーサポートなど、行政のさまざまなサービスもありますが、気持ち的にも余裕がなく、はじめから諦めの気持ちを抱くママも多いですよね。「相談する時間があったら寝たい!」とも思いますし。

佐藤
便利なサービスがあるのは知っていたんですが、日程を合わせたり、連絡したりするのさえ面倒でした。何か大きな悩みがあったらもしかしたら頼っていたかもしれませんが、「そこで相談して何が変わるんだろう」と思い、特に依頼することもありませんでした。慢性的に寝不足で、病んでいたのかもしれませんね(笑)。

飯田
私も、良いお母さんになるために勉強したはずなのに思うようにいかず、悩むことも多かったです。主人はとても協力的でしたが、それでもたくさん喧嘩しました。慣れない生活に四苦八苦しているお母さんたちの辛い状況を、もっと声を大にして伝えるべきだと思います。

福祉の観点から見る子育てや社会の課題<br>女性活躍に向けて、私たちが今できること。

困難な状況の中で頑張るママに
支援の手を差し伸べるには?

飯田
佐伯でフリーの臨床心理士として15年ほど活動するなかで、不登校や虐待など様々な問題に向きあってきました。そこで感じたのは、小さいお子さんを抱えている母親の支援の重要性です。お子さんの発達に悩む母親や、子育てに不安を抱えている母親の悩みに寄り添う支援の必要性を感じました。そして、そのあと、大学院へ進学しました。現在は、「母親自身に自閉症スペクトラムなどの発達障害がある家庭への支援」をテーマの1つとして研究しています。お母さんご自身が発達障害のため、友人や親戚付き合いが難しかったり、実母と疎遠だったり…。赤ちゃんに対しても感情がコントロールできないため、一歩間違えたら亡くなってしまう可能性もあります。一見、ひどいお母さんに見えるかもしれませんが、本人は良いお母さんになりたくてたまらないのです。「彼女たちが穏やかに子育てするためにはどうすればいいのだろうか」、「周囲に理解してもらうにはどうすればよいのだろう」。彼女たちを理解し、慈愛の言葉や支援を届ける難しさを体感しています。


自然の中で落ち着ける相談室
(現在は相談をお受けしておりません)


佐藤
社会において、そういったお母さんたちはやはり見過ごされてしまいがちです。相談に訪れた際に、飯田先生のように専門性や経験があるのであれば、さらに別の専門の先生へ案内することができます。しかし、そのような人に出会えなかった場合、問題として拾ってもらえません。悩んでいる人たちに、社会としてどのような支援が必要なのか。わたしたち「ママのままプロジェクト」にできることはあるのか、考えていかなければいけませんね。

飯田
発達障害のために困りを抱えている母親は、ひと目ではわかりません。面談でコミュニケーションをとるにあたって、保健師さんが困りを見抜き支援するスキルを身につけておく必要があります。しかし、最近では保健師さんたちも、さまざまな研修も受けていますし、発達障害についての理解が進んでいます。お母さんが抱えるほんの小さな悩みのタネも見逃さず、解決の糸口を見つけられるようになってきたのではないかと感じています。

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声を上げられないママたちに
役立つ情報を届けるのがママのままの役目

飯田
昔に比べれば、ママたちが集まり、情報交換ができる支援拠点も充実してきています。しかし、「子育ても仕事も頑張らなきゃ」「完璧なママにならなきゃ」と思うママも多いです。まず伝えたいことは、「子育ては1人でするものではない」ということ。妊娠期に行われる「母親学級」では、沐浴指導や抱っこの仕方などを習います。確かに、それも大事なのですが、産後にホルモンバランスが崩れることや、夫婦2人や親戚、地域皆で協力しながら子育てしていくことの大切さなど、生理学的なことやマインド的な部分の教育まで、ママだけでなくパパにも、しっかりとカバーしていかなければいけません。

佐藤
昨年、大分大学で学生たちに、私の経験をもとに講義を行う機会がありました。男子学生が多かったので、アンコンシャスバイアス(無意識な偏見)も含めて、「女性活躍における男性の子育てと家事参画」といった内容をお話しました。ジェンダーレス、ボーダレスな社会になってきた今、より具体的なイメージを抱いてもらうため、学生の頃から妊娠・出産・子育ての知識を身につけ、お父さん教室に参加するなど、実践的な体験をすることが大切だと感じています。



飯田
保育園や幼稚園、小学校、中学校の頃から「男の子なんだから泣いてはいけない」「男の子らしく、女の子らしく」と教えるのではなく、多様性に焦点を当てて、“自分らしさ”を育んでいくのも重要です。

佐藤
「ママのままプロジェクト」は、サイトやラジオで一方向に情報発信もできるし、SNSでインタラクティブに情報交換ができるメディアです。子育てに悩むママたちが、「ここに相談してみよう」「旦那さんにこう伝えよう」など、このメディアを通じて何らかのアクションを起こすことでママの負担が軽減され、ママ同士が支えあっていくことを願っています。自分から声をあげたり、アクションを起こせないママたちが、欲しい情報を欲しいときにピックアップできる場所になるように、と想いを込めながら日々制作にあたっています。

飯田
とても素晴らしい意義あるメディアだと思います。今は、自分から必要な情報を取りに行く時代です。同じ境遇のママたちがつながって“1人じゃないんだ”と思うことで、気持ち的にもすごく楽になりますからね。「ママのまま」だからできる企画やコンテンツで、たくさんの役立つ情報を発信し続けてほしいです。

福祉の観点から見る子育てや社会の課題<br>女性活躍に向けて、私たちが今できること。

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