2021.07.20
現代社会は虐待やDV、引きこもり、など、さまざまな福祉の課題も多数見受けられます。今回は、臨床心理士として働き多くの女性を支援、現在は大分大学で教鞭を振るう飯田法子先生と、ママのままプロデューサーの佐藤宝恵の対談をお届けします。女性研究者のプライベートと研究の両立のコツ、代表的な研究内容、研究から浮き彫りになった子育てや社会の課題、女性活躍の実現に向けて今できることなど、働く女性の視点で展開していきます。
佐藤
飯田先生のこれまでのキャリアを教えてください。
飯田
わたしは、大分市出身で、京都女子大で児童学を専攻しました。実は今、ライフワークとなっている心理学関係を学ぶつもりは全くなかったんですよ。家庭科教員の資格が取れるということで、花嫁修業のために通っていました。京都女子大を目指したきっかけも、お嬢様に憧れていたという理由でした(笑)。しかし、そこで心の病を抱える子に向けたクリニックを運営していた先生との出会いがきっかけで、考えがガラッと変わりました。自閉症の研究をしながら仕事と家事・育児を両立しイキイキと輝く姿に憧れ、私も先生の背中を追って今の道へ進むことに。その方と出会っていなかったら、今の私はいないと思います。
佐藤
結婚後は、家事や子育ての時間も楽しい、充実しているという感覚でしたか?
飯田
私は“先生”というイメージがあるので、意外だと思われるかもしれませんが、働きながら1人で子育てするなんて、正直無理だと思っていました。佐伯にある主人の実家には、子どもの祖父母、曾祖母もいます。田舎の大家族のもとで子育てしたいと思っていたので、妊娠が決まった時には迷わず佐伯で暮らすことにしました。充実した生活でとても恵まれた環境でした。しかし、人生にはいろんなことが起こります。下の子が3歳を迎えると、曾祖母の介護が始まったりと、良いことばかりではありませんでしたね。
佐藤
妊娠したばかりの頃はインターネットが普及していなかったので、出産前は雑誌や育児書を見て、「赤ちゃんが寝ている間に紅茶でも飲みながら読書を…」と優雅な子育てのひとときを想像していました。不妊治療の末、待望の赤ちゃんが生まれ、「さぁいよいよゆっくり赤ちゃんと向き合う時間が来た」と思っていたのに、生まれた長男は、全く寝ない子で。毎日とにかく必死で、疲れ果てて、仕事復帰できるのかなと不安に感じていましたね。
飯田
佐伯でフリーの臨床心理士として15年ほど活動するなかで、不登校や虐待など様々な問題に向きあってきました。そこで感じたのは、小さいお子さんを抱えている母親の支援の重要性です。お子さんの発達に悩む母親や、子育てに不安を抱えている母親の悩みに寄り添う支援の必要性を感じました。そして、そのあと、大学院へ進学しました。現在は、「母親自身に自閉症スペクトラムなどの発達障害がある家庭への支援」をテーマの1つとして研究しています。お母さんご自身が発達障害のため、友人や親戚付き合いが難しかったり、実母と疎遠だったり…。赤ちゃんに対しても感情がコントロールできないため、一歩間違えたら亡くなってしまう可能性もあります。一見、ひどいお母さんに見えるかもしれませんが、本人は良いお母さんになりたくてたまらないのです。「彼女たちが穏やかに子育てするためにはどうすればいいのだろうか」、「周囲に理解してもらうにはどうすればよいのだろう」。彼女たちを理解し、慈愛の言葉や支援を届ける難しさを体感しています。
飯田
昔に比べれば、ママたちが集まり、情報交換ができる支援拠点も充実してきています。しかし、「子育ても仕事も頑張らなきゃ」「完璧なママにならなきゃ」と思うママも多いです。まず伝えたいことは、「子育ては1人でするものではない」ということ。妊娠期に行われる「母親学級」では、沐浴指導や抱っこの仕方などを習います。確かに、それも大事なのですが、産後にホルモンバランスが崩れることや、夫婦2人や親戚、地域皆で協力しながら子育てしていくことの大切さなど、生理学的なことやマインド的な部分の教育まで、ママだけでなくパパにも、しっかりとカバーしていかなければいけません。
佐藤
昨年、大分大学で学生たちに、私の経験をもとに講義を行う機会がありました。男子学生が多かったので、アンコンシャスバイアス(無意識な偏見)も含めて、「女性活躍における男性の子育てと家事参画」といった内容をお話しました。ジェンダーレス、ボーダレスな社会になってきた今、より具体的なイメージを抱いてもらうため、学生の頃から妊娠・出産・子育ての知識を身につけ、お父さん教室に参加するなど、実践的な体験をすることが大切だと感じています。