2025.09.11
「障がいがある自分の子どもの将来はどうなるのだろう?」。障がいをもつ子の親なら、ふと胸によぎるかもしれません。自閉スペクトラム症の息子を育てる後藤亜希さんも、そんな想いと向き合いながら日々を過ごしています。現在、息子の蒼大くんは別府の「梅本美術研究所」でヒーローや怪獣のキャラクターを描き、のびのびと自分を表現しています。障がいの有無にかかわらず、好きなことに夢中になれる時間は、子どもたちにとって自信や成長を育む、かけがえのない力になります。アートがただの趣味にとどまらず、自己表現や社会とのつながりへと広がっていってほしい――。後藤さんの話から、そんなアートへの願いと可能性が、確かに紡がれていることを感じました。
― お子さんの特性について教えてください。
息子の蒼大は、自閉スペクトラム症があります。小さい頃からじっとしていられなくて、落ち着きがない子でした。集団生活も苦手で、保育園でもひとりで過ごすことが多かったんです。でも、絵を描くときだけは驚くほど集中できます。
― 特性がわかったきっかけは?
歩き始めるのも言葉を喋るのも遅くて、3歳児検診を少しはやめて受けることに。その後、病院受診の結果で自閉スペクトラム症だとわかりました。私自身、頭の中では「そうかもしれない」と思いつつも、やっぱりすぐには受け止められませんでした。普通の小学校に行かせるか、それとも支援学校に行かせるかもすごく悩んだのですが支援学校を選びました。
―支援学校に通ってみてどうでしたか?
特性がわかった時点では、正直、子どもの教育や将来に対する不安はとても大きかったです。でも、支援学校に通うようになってからは、先生方がとても温かく、息子の特性を理解し、伴走してくれることに安心しました。
― お母さんはどのようなお仕事をされていますか?
私は大分市内の病院で看護師をしています。息子が支援学校に通っている間に勤務して、仕事が遅くなるときは祖父母に助けてもらっています。シングルマザーなので大変なこともありますが、祖父母や職場の皆さんに支えられながら、なんとか日々を乗り越えています。このように周囲のサポート環境があることは本当にありがたいですね。
― 梅本美術研究所に通うことになったきっかけは?
息子には何か好きなことをやらせてあげたいと思っていました。体を動かすことや集団競技は難しかったのですが、絵を描くことは大好き。そんなとき、祖母が新聞で「梅本美術研究所」の記事を見つけて「問い合わせてみたら?」と勧めてくれたのがきっかけです。現在は2週間に1回ほど、とても楽しそうに通っています。
―蒼大さんの絵の特徴は?
特にヒーローや怪獣のキャラクターを描くのが大好きで、単なるコピーではなく、独自の解釈を加えているんです。例えば、仮面ライダーやウルトラマンといった定番キャラクターでも、蒼大なりの色彩感覚やフォルムで描き起こしています。
― 絵を描くことで、蒼大さんに変化はありましたか?
絵を描くことや教室に通うことで、落ち着いて自分の気持ちや世界観を表現できるようになってきたと感じます。BE:FIRSTが大好きで、支援学校の文化祭でダンスを踊ったこともあるんですよ。絵のスキルも磨きながら、少しずつコミュニケーション力も育ってきています。最近は、パソコンで検索しながら自分なりのアレンジにも挑戦しています。色の選択から、キャラクターの特徴など、蒼大らしさが散りばめられています。
― 蒼大さんにこれから挑戦してほしいことは?
社会の中で自立していくために必要な経験を積んでいくことですね。例えば、車だけでなく電車やバスといった公共交通機関にも小さいうちから慣れてほしいと思っています。将来、就職して自分で通勤したり外出したりするときに、自然に交通機関を使えるようになるために、少しずつ挑戦させたいですね。
― 蒼大さんがアートに取り組む姿を見て、どんな可能性を感じていますか?
最近は、パソコンで調べながら自分なりのアレンジをするなど、表現の幅も広がってきました。色の選び方やキャラクターの描き方に蒼大らしさが出ていて、親としても楽しみです。いずれ多くの人に作品を見てもらえたら、という気持ちもありますが、一番大切にしているのは蒼大の笑顔と意思。やりたいこと、挑戦したいことを尊重していきたいと思っています。
― 将来、どんなふうに育ってほしいと考えていますか?
本人いわく、将来の夢は「絵を描く人」か「歌って踊るアーティスト」だそうです。キャラクターを自分で考えたり、色彩感覚も豊かなので、将来は作品を商品化したり展示会に出したり、そんな形で社会とつながっていけるのではないかと感じています。やっぱり“好きなことを続けて生活していけたら一番幸せ”私はそう願っています。人との関わりを大事にしながら、自分らしい未来を歩んでいってほしいと思っています。
「アートが人と人をつなぎ、新たな価値や仕事を生み出していく」。そんな未来を信じて、大分県では2025年8月「WAO!プロジェクト(Wonder Art Oita)」がスタートします。障がい者アーティストが、まちを変え、社会を動かし、そして“文化”へと育っていく。その新たな一歩を踏み出します。
|期間| 2025年9月13日(土)〜10月26日(日)
|場所| JRおおいたシティ「タイムズスクエア」
●作品展示販売
●Tシャツやカレンダーなどのアイテム販売
●創作風景がわかるムービーや作家の活動を紹介するパネル展示
●アートを活かした体験型ワークショップスペース
2025年8月29日(金)
〜2026年2月28日(土)
[月1回・入替(予定)]
●コントマーケット(大分市中央町)
●Bar Luciano(大分市都町)
●CICOU life design・HEIL(大分市府内町)
●DENHAM 大分店(大分市府内町)
●ripple(大分市府内町)
●Sunshine Wind(大分市府内町)
●Studio Navigate(大分市府内町)
●南光物産株式会社(別府市鉄輪)
●ホテル白菊(別府市上田の湯町)
●おにやまホテル(別府市鉄輪)