MAMA STYLE様々なママの様々なスタイルを
ご紹介します

2018.04.01

点と点が結ばれて線になって、
今があると感じます。

上村貴子さん

今回のママ:
上村貴子さん・41歳・大分市出身・臼杵市在住
(小学校4年生・5歳の2児の母)

平成28年に臼杵市の山間にオープンしたパン屋さん「UEMURA BREAD(ウエムラブレッド)」を、ご主人と二人で切り盛りしている上村さん。安全安心な素材をなるべく使用したフランス系、ドイツ系のパンを焼き分けた人気のお店だ。古民家を改装した店内兼住居で、羽釜や五右衛門風呂のある、不便だけど心豊かな生活を送る。あそび、まなび、りらっくすを提案する月に一度開催のイベント『100人スコーレ』の発起人、主催者でもある。

大分で自分らしく生きるママたちのこれまでを綴るインタビューシリーズ。
今回は、臼杵市に移住し、ご主人と二人三脚でパン屋さんを営む上村貴子さんのストーリー。

アメリカでの過酷な経験が、大切なことに気づかせてくれた

ショートカットが似合うモデルのような出で立ちなのに、ガハハ!と大きな口を開けて笑う上村さんは、臼杵市にあるパン屋さん「UEMURA BREAD」の広告塔でもある。柔らかい物腰のパン職人のご主人は黙々とパンを焼き、焼きあがった愛情たっぷりのパンを売るのが上村さんの仕事だ。 

側から見れば、お店を構え、自分たちの理想を形にした順風満帆な人生に見えるかもしれない。けれど「ジェットコースターのような人生だった」と、上村さんはこれまでの道のりを振り返る。

両親の離婚、一時パニック障がいを患った母親の面倒をみるために諦めた東京進出、大好きだった恩師の死…。そんな大分での生活に嫌気がさし、心機一転、渡米。そこで待ち受けていたのが、世界中を震撼させた9・11アメリカ同時多発テロ事件だった。「身近にいたアメリカの友人たちの『報復だ!』という考え方にショックを受けました。日本に帰りたくても飛行機が飛ばす、アメリカに残るしかなくてあの時は本当に孤独だった…。街に置かれているゴミ箱が何かの拍子にパーンと鳴ると『銃かも…』と怯える毎日。この状況って日本では考えられないことですよね。私が日本で少なからず培ってきたつもりのアイデンティティが崩壊して、精神的にも疲れてしまった。心身ともにボロボロでしたね」。そんな時「帰ってこい!」と心配してくれる友人たちや、円形脱毛症になってしまった母親を見て自分が必要とされていること、そして日本の豊かさを改めて感じ、上村さんはこの経験を機に人生をリスタートさせた。

上村貴子さん

子どものアレルギーをきっかけに見えた、本物に触れること

日本に帰国後、大手食品製造メーカーに就職し、同僚だったご主人と31歳で結婚。転勤を機にご主人も退職し、夫婦でその後の人生設計を考えていた。ちょうどそのタイミングで出会ったのが大阪で人気のパン屋さん。偶然食べたパンの美しさと美味しさが忘れられず、もともと職人に憧れていたご主人は、縁あってその店で修行することに。その後長女が誕生するが、重度のアレルギーが判明する。上村さんは二軒の病院を掛け持ちして、治療法を模索する日々を送る。「なんでうちの子が?主人が作るパンを我が子が食べられないのはどうなの?」。先の見えない辛い思いを抱えながら、マクロビでの食事療法や、同じ境遇のママたちに出会い、アレルギーと前向きに向き合えるようになった。

大阪で5年間のブランジュリ(フランス系のパン)の修行を経て、夫婦でドイツの国家資格を持つ名古屋のパン屋さんで引き続き修行を積むことになるご主人。親戚のお墓参りで訪れた名古屋での偶然の出会いだった。本格的なドイツパンを学び、もっと本物を知りたい!と、家族3人でフランス・ドイツを訪れる。

「アレルギーの長女がヨーロッパで食べられるものがあるかと心配はあったけど『とにかく行ってみよう!』と、強行突破。当時は少ない給料で生活していただけに、今考えればかなり無謀だったなぁと思うけど(笑)、でも本当に行ってよかった。物事には全てに本質があって、それを自分の目で確認しないと前に進めない太刀なんですよね。やっぱり本場で出会った本物には文化や歴史、技術がしっかりあって、理屈なしに体に染み入る感じだった。子どもたちにも本物に触れて欲しい。だけどだからと言って、それを他人に押し付けるんじゃなく、私たちの中に軸があればそれでいいんだ!ということにも気づくことができました」。

食生活を変えることで徐々にアトピーも改善され、食べ物が人の体を作っているということを実感。今のお店の『安心安全なものを提供したい』という思いもここで確立した。その後、田舎でのびのびと子どもを育てたいという思いから、臼杵市に移住することを決意し、念願だった自分たちのお店をオープンさせた。

上村貴子さん

流産を繰り返した窮地に救われた言葉

実は二度の流産という辛い経験をしている上村さん。名古屋に住んでいた頃、給食調理の仕事に就き、そのタイミングで第二子の妊娠が判明。流産が続いていただけに、嬉しい反面、また流産を繰り返すのでは…という不安も大きかった。それまでは親切だった職場の人たちだったが、体調不良で休みがちになった上村さんへの態度が冷たくなっていった。「肩身の狭い思いをしたけど、赤ちゃんの命には代えられないので職場を退職しました。心が荒んでたその頃、近所のヤンキー風の(笑)友達が『そんなに考えなくていいじゃん!今の時代、技術が進んでるんだから科学でどうにかなるかもしれないし!』って言ってくれて、マイナス思考になってた私に選択肢を与えてくれました。その言葉が、私をフラットにしてくれたんです」。

その後、愛知県内に、出産ギリギリまでお母さんに寄り添ってくれると評判の産婦人科があることを知り、病院を訪れる。「そこの先生は『お母さんが楽しいことをやって、その先に赤ちゃんがいるんですよ』と言ってくれた。当時、畑で野菜を作っていたりしてたんですけど、大好きな畑仕事は負担がかかるかもと控えてた。でも先生のその言葉を聞いて、いろいろと心配するよりも私が楽しいことをすることが赤ちゃんにとって一番いいことなんだ!って、産まれる寸前まで畑仕事をやってましたよ(笑)」。赤ちゃんも無事、いよいよ出産。命の大切さや奇跡を伝えたいと、自ら希望して公開自宅出産を選択。友達や友達のご主人、5人の助産師さんが集まり出産をサポートしてくれた。無事出産を終え、かまどのお米で握ったおむすびと、日本酒でみんなで乾杯。「昔の出産はこんな感じだったのかな…」と思いながら、出産の喜びを噛み締めた。

出産は祭りごとじゃない。キラキラしてなくてもいいと思う

「でも、出産は祭りごとじゃない。キラキラと希望に満ち溢れた出産前と、現実を知る出産後のあまりの落差に悩んでいるママはたくさんいると思う。『自分だけじゃない。みんな同じだ』って安心してもらえる場所になればと“お産のふりかえり会”というものを自宅で開催しています。産んだ人、産んでない人、不妊治療してる人、流産した人…。いろんな人たちが集まって、命ってなんなの?って、お母さんたちが色々と話して、聞いてもらう場所。悩んでも、最終的には答えは自分の中にあるんだと気づける、なんでも言い合える場所になってたら嬉しいですね」。

上村さんが何かの行動を起こす時、常に心に掲げていること。それは“本気でやればできないことはない!”。

「生まれてくること、死んでいくこと…。一生のサイクルの中で、日々の生活に色付けするものが彼が作るパンであり、それを届けるのが、今自分ができる最大のことだと思います。だからいつも本気で向き合っています。常にものごとはゼロからのスタートだけど、そこに付加価値をつけていくのは自分。20代のマイナススタートからずっとそれを考えてきたから、自分の目で価値を確かめないと気が済まないんですよね、私(笑)」。上村さんと話すと、涙を流す人ママも多いそう。まるで太陽の光を求めるかのように、彼女の周りにたくさんの人が集ってくる理由が分かった気がした。

上村貴子さん

頑張った毎日を積み重ねて、今がある

ご主人と上村さんが営むパン屋さんは、金曜~日曜のみの営業で、上村さんは朝7時から売り切れまで店先に立つ。それ以外の日は次の日の仕込みか、大分市へ販売行脚。純粋なお休みは火曜だけというハードスケジュール。お店を切り盛りする一方でイベント運営などにも関わり、臼杵市の子育て課と共同で製作した冊子を、今春出版する。

「開店して3年目。子どもを見ながら仕事はできる!と思ってたけど、やっぱり大変です。でも地域の人たちや友達に助けてもらってます。お互いが助けあえる環境がようやく整ってきたかな。今までの経験には何一つ無駄はなくて、私たちがこれまで歩んできた一つ一つが繋がって今のパン屋さんという形になっていると思う。頑張った日々が過ぎて行って“今”がある。いつも夫婦で『私たち、これでいいよね』って確認しあってます。時々ポキっと折れそうになる時もあるけど、それはそれでまた明日頑張ればいい。人に恵まれ、子どもたちがすくすく育っている“今”に幸せを感じています」。

上村貴子さん

UEMURA BREAD
大分県臼杵市大字中臼杵1062番地
電話:070-6533-3037
営業時間:金~日曜(第2日曜はお休み)
7:00~18:00(売り切れ次第閉店)

この記事のライター:安達博子

「40代前半で、こんな激動の人生を歩んでいる人は他にいない!と言い切ってもいいくらい、たくさんのエピソードがまだまだある上村さん。本が一冊書けそうなくらいです。“本質を知りたい!”と直感で動き、そこでの経験や、人との出会いが肥やしになって、今の彼女が作られているんだと感じます。『人生の中で経験することに一切の無駄はなく、点が線で結ばれて今がある』という言葉に心底納得! 可愛い二人の娘さんの成長を見守りながらパン屋を切り盛りしつつ、ママたちのサポート、各種ワークショップ、イベント主催…。「やることが多すぎて、人生がもう一回あればいいのに」という言葉に清々しささえ覚えます。元気100パーセント!で、みんなにパワーを分けてくれる、頼れる存在のママでした」

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