MAMA STYLE様々なママの様々なスタイルを
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2018.06.05

子どもが巣立った後に
すごく楽しい自分でいたい

大呂紗智子さん

今回のママ:
大呂紗智子さん・40歳・福岡県出身・大分市在住
(小学校5年生・4歳(双子)の3児の母)

大分市にある弁護士法人「アゴラ」の弁護士。東京大学経済学部を卒業後、農林水産省に入省。約2年後に退職し、25歳で結婚。その後弁護士を目指し、岡山大学大学院法務研究科に入学。平成19年に新司法試験に合格し、同年よりシドニー大学ロースクール※に入学。シドニー留学中に妊娠が判明し、第一子を出産。平成22年に司法修習を修了し、同年、初の女性弁護士としてアゴラに入社。現在小学校5年生の長男、双子の女児のママでもある。
(※ロースクールとは…弁護士・検察官・裁判官など法律家に必要な学識及び能力を培うことを目的とする教育機関)

大分で自分らしく生きるママたちのこれまでを綴るインタビューシリーズ。
今回は、3人のお子さんを育てながら、弁護士として日々様々な問題に立ち向かう弁護士の大呂紗智子さんのストーリー。

女性が一生働くには資格しかない
そう思い、選んだのが弁護士だった

過去お世話になる機会もなかったので、人生で初の弁護士事務所を訪れ、少し緊張気味。招かれた来客室に現れた大呂紗智子さんの「こんにちは」という和やかな挨拶に、ホッとする。取材の少し前にちょうど40歳を迎えた大呂さんに、突然ながら40という大台にのった感想を聞いてみた。「明確に自分の記憶に残っている40代は、自分の親。40代はサラリーマンならもう管理職。私の仕事にはそういったポストはないけど、自分もあの頃の父親と同じ世代になったんだなって思いましたね」。

子育てをしながら弁護士として活躍する女性がいると聞いた時、“いかにも出来る女像”が勝手に頭の中で出来上がっていた。でもいい意味で裏切られた。選ぶ言葉に気取りがなく、飄々としていながらも熱い心を持つ人だと感じた。プロフィールに並ぶ高学歴を見て、正直慄いてしまったけれど、大呂さんが持つ等身大で飾り気のない空気感は、とても居心地がよかった。

まず、絶対に聞きたかった質問をぶつけてみる。「小さい頃、どんな家庭環境だったんですか?どんな育てられ方をしたら、東大に入れるんですか?」。子を持つ親として、我が子は無理だとわかっていてもとても気になった。「典型的な昭和のサラリーマン家庭ですよ。“24時間働けますか”のキャッチフレーズそのままの企業戦士の父、専業主婦の母、姉、弟の5人家族です。社宅で育ち、一軒家を建て…という普通の家庭です。ただ、父が京都大学出身で『女性は頭が悪い』みたいなちょっと偏った考えを持った人だったので、この人に勝つには東大に入学するしかない!と思って、必死に勉強しました(笑)。それに、当時私は運動が苦手だったので、勉強で頑張って親を振り向かせたいという思いも強かったんだと思います。両親に認められたい一心でしたね」。

この反骨精神をバネに、見事東京大学経済学部に一発合格。卒業後は農林水産省に入省する。絵に描いたようなエリートの道を辿る大呂さんだったが、農産水省での仕事が肌に合わず2年で退職。これを機に、同じ職場で研究員として働いていた当時の彼(現在のご主人)から「じゃあ、結婚する?」とプロポーズされ、25歳という若さで結婚した。「結婚したはいいけど、私これからどうしよう…と考えた時、女性が働き続けるならやっぱり資格が必要だと思ったんです。私は経済学部だったので、同級生たちは公認会計士を取得する人が多かったんですが、毎日数字と向き合うのは無理そうだなと思って、弁護士を選びました。『人助けをしたい』とか、そんな高い志があったわけじゃないんです。仕事を辞めた挫折感と、自分が前職でできなかったことを取り返したいという気持ちが強かったと思います」。

大呂紗智子さん

赤ちゃんと一緒に勉強できる、オーストラリアの拓けた環境

退職した翌年、弁護士を目指し岡山大学大学院法務研究科へ入学。その3年後の平成19年、これまたストレートで司法試験に合格。「3年間は司法試験に合格するため一生懸命勉強しました。私、授業とか会議とかすぐ眠くなるんですけど、あの時は授業中に寝ることはなかったので、『私、真剣なんだ!』って思いましたね(笑)」。司法試験合格の半年後、シドニー大学のロースクールに入学、そのタイミングで運命のいたずらが…。「留学中に妊娠が分かり、大きいお腹で授業を受けていました。オーストラリアは妊婦さんや赤ちゃん連れのママにとても寛大で、大学でもレポートの期限をもう少し伸ばしていいよと融通を利かせてくれたり、授業に赤ちゃんを連れてきても全く構わないとも言われました中には授乳しながら授業を受けている女性もいました。教室先生の研究室にベビーベッドが設置されていたりと、赤ちゃんが側にいながら勉強のや仕事をできる環境が整っていました。日本だったら、そんなことをしたら公私混同だと思われてしまいそうですけど、それを容認する風土なんでしょうね。最初、おっぱいをあげながら授業を受ける女性を見てびっくりしましたけど。子育てをしながら学べる、恵まれた環境でした」。 

シドニー大学を修了後、司法研修所へ入所。翌年に司法修習を修了し、平成22年に現在の職場であるアゴラに初の女性弁護士として入社した。入社後、第二子となる双子の赤ちゃんを授かり、職場初となる育休を取得することに。「女性弁護士、そして出産して育休を取るのは私が第一号だったので、かなり自由にさせてもらいました。時には職場に子どもを連れ来て、仕事をさせてもらえたり、とても働きやすい環境です。困ったことも特になく、ありがたく感じています」。

ところで、大分には縁も所縁もない大呂さんご夫妻。なぜ大分に移住することに?「主人が大分大学で経済地理学を教えることになりまして。そのタイミングで私も大分での就職を決めました。こちらに来た当時は、大分の色んな事に衝撃を受けました。まだ新しくなる前の大分駅はエレベーターがなかったので「ベビーカーはどうすればいいの?」と困りましたね。あと、パン屋さんやケーキ屋さんの日曜日店休が多いこと。それと、お客さんに対して愛想は良くないけど、親しくなると優しくなる人情深いところ。温泉もあるし、魚も新鮮で食べ物も美味しくて、今では住めば都です」。

大呂紗智子さん

子育てをサポートしてくれる
地域の人たちや制度に助けられています

離婚問題や交通事故、建築紛争など、あらゆる相談に対して裁判時の代理業務や、交渉、法律相談などを行う弁護士さんの仕事。一日中パソコンに向き合い文章を作成したり、裁判所や警察へ赴くこともあり、時には子どもを連れてそれらを回ることもある大呂さん。仕事の時間はあっという間に過ぎ、帰宅後は母親業としてフル回転。19時半から晩御飯、20時半にお風呂、21時半には子どもたちを寝かしつけらながら、そのまま一緒に寝てしまうそうだ。

仕事の中には急ぎの案件もあり、勤務時間内でこなせなかった仕事は家に持ち帰ったり、子どもたちが寝静まった頃に再び職場に行って仕事をすることもあるそう。「長男の時は大変でした。弁護士の仕事を始めて間もなかったので要領を得ていなくて、資料が必要な仕事だと、子どもが寝入った夜中に職場に行って仕事したりして…。途中、主人から『泣き止まないから、帰ってきて!』って電話があれば家に戻ったりとそんな日々でした。週末の土日で仕事の遅れを取り戻したいと、子どもがまだ一人だった時は職場に連れて来て、仕事をしていたんですけど、さすがに3人になるとそれも無理になってきて。主人も全面的にサポートしてくれるんですが、3人の子どもを預けるのにはハードルが高過ぎて気が引けてしまって、遠慮する部分もありますね。今預けている保育園は、両親が土日とも働いている場合しか預かってもらえないので、例えば、土曜日の午前中だけでも子どもを預かってくれる保育園があればと全然違うのになぁと思います」。

実は、娘さんの一人は、病気がきっかけで障がいを抱えている。子どもが半年ほど入院していた時、毎日がとても大変だったと大呂さん。現在、小さな子どもが入院する際、親の24時間の付き添いが必要とされるため、残された2人のお子さんがいた大呂さんご夫妻はとても苦労したそうだ。頼れる存在が近くにいない場合や、一人で子どもを育て仕事をするシングルマザーは、そんな時どうしているんだろう…と心配そうに呟いた。「もちろん、子どもが怪我や病気で入院した時は、親はつきっきりになるとは思います。でも、いろんな事情を抱え、24時間そばにいられない人もいるかもしれない。例えば2時間、いや30分だけでもいいので、保育士さんが見てくれたり、フォローしてくれる制度がないのがとても残念です。その僅かな時間で、お風呂に入ったり買い物に行ったりと色んな用事を済ませることができる。娘の入院の時は、主人と私とで交代で看護していたのですが、どうしても回らなくて、病院にその時間だけシッターさんに付き添いをお願いしてもいいか聞いたんですけど、前例がないのでダメです、と言われました。高齢者の方々に対しては、手厚いサポートが受けられる制度が確立しているのに、小さな子どもが入院した場合は、親や親族が24時間つきっきりで側にいなければならないのが現状です。何らかの形で行政がフォローしてくれたり、病院側もネットワークを作って信頼できる人にお願いできるような仕組みを作って欲しいですよね。子育て世代にとっては、かなり切実な問題だと思います」。

どうしても夫婦だけで手が回らなくなった時、大呂さんは、大分市が運営するファミリー・サポート・センター※を利用し、サポーターさんに息子さんの送迎やお世話をお願いしたことがあるそうだ。大分に移住して間もない大呂さんにとって、こういった制度はとても心強いものだったに違いない(※子育て中の家庭を応援するために「援助を依頼する人」と「援助を提供する人」が会員になり、子どもの世話を一時的に有料で援助し合うシステム)。

ご主人やファミリー・サポート・センター以外にも、大呂さんの子育てを応援してくれる強い味方がいる。「我が家の隣が大家さんで、子どもたち息子は大家さんにもお世話になってます。近所にある床屋さんも心強い味方で『何か困ったことがあれば髪切り屋さんに行けば大丈夫!』って、息子が頼っている場所です。ご近所付き合いが希薄になっている現代で、私たちにとっては天然記念物みたいに貴重で、本当にありがたい存在です」。

女性の味方になれる弁護士を目指して

離婚問題、浮気問題、DV問題など、男女に関する案件で、弁護士の元に相談に訪れる女性は近年増えている。しかし、まだまだ女性弁護士の数は少なく、弁護士会では稀有な存在だ。「女性を取り巻く問題もいろいろあって、ドロドロして難しいものも多いです。だけど、そこには子どものその後の人生に関わる案件も多いので、私自身が母親であることで、女性たちの立場や気持ちになって考えることができると思っています。時々『ママ業を優先しすぎているかも…』と自問自答して悩むこともあります。男性弁護士に比べて、期待に応えられる十分な働きができてないと思うし、仕事と母親業のバランスを見たとき、私的には仕事の面で消化不良だと感じることがあります。でも、逆に仕事が忙しくて帰宅が遅くなった時や、仕事関係の飲み会があった時は、子どもたちに『大好きだよ!』と気持ちを伝えたり、長男と二人でゆっくり話す時間を作ったりしています。仕事と家庭のバランスを取るのはなかなか難しいですよね」。働く女性たちは常に、ワークライフバランスに悩み、葛藤しながら毎日を送っているに違いない。大呂さんも同じ悩みを持つことを知り、共感しあえたことで少し安心する自分がいた。

最後に、自分自身、そして家族のこれからについて聞いてみた。「うーん、まだあまり先のイメージは具体的にはできてないんですけど、子どもたちが巣立った時に、すごく楽しい自分でいたい!とは思っています。子どもたちが独り立ちして家からいなくなった時、心に大きな穴がぽっかり空くんじゃなくて『お母さんはお母さんでいろんなことがあって、毎日楽しいよ!』って言える自分になっていたいですね」。

大呂紗智子さん

弁護士法人 アゴラ
大分市千代町2-1-23
電話:097-537-1200
http://www.agora-jp.com/

大分市子育てファミリー・サポート・センター事業
http://www.city.oita.oita.jp/o107/kosodate/kosodateshien/1087993500062.html

この記事のライター:安達博子

「常に自然体で、今を正直に生きている大呂さんは、静かさの中にも熱い心を持つ、“能ある鷹は爪を隠す”という言葉がぴったりのとてもカッコ良い女性でした。もし自分の身に何か起こった時(起こらないに越したことはないけど)、真っ先に相談に行きたいと思う弁護士さんが身近にいることは、大分に住むママにとって心強い存在だと思います。以前の取材の際にも話題に出てきた、子どもの入院の際の、24時間付き添いが必要なシステム。何人ものママたちがお子さんの入院を経験されていて、皆が皆、口を揃えて『本当に大変だった…』と話していました。もしかしたら、今、この時間にも、入院の付き添いで疲れ果て、SOSを出しているママがいるかもしれない。色々とクリアできない難しい問題を含んでいるのかもしれませんが、大呂さんの話を聞き、やっぱりこれは大分のママたちに取って切実な問題なのだと再確認しました。少しでも解消できる方法が見つかるといいなぁ…」

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