2018.06.26
今回のママ:
藤田郁子さん・47歳・長崎県出身・大分市在住
(大学3年生・高校3年生の2児の母)
NPO法人ハウスキーピング協会認定講師・整理収納アドバイザー1級、日本野菜ソムリエ協会認定野菜ソムリエ。専業主婦を経て38歳の時に整理収納アドバイザー1級の資格を取得。現在は講師として大分県を始め、九州各県でセミナーを開催しアドバイザーとしても活躍する。福岡の大学に通う長男と女子高生の娘さんの2児の母。Facebookでは毎日娘さんに作っている高校女子弁当を公開中。
大分で自分らしく生きるママたちのこれまでを綴るインタビューシリーズ。
今回は、住宅収納のスペシャリスト・整理収納アドバイザーの講師として活躍する藤田郁子さんのストーリー。
世の中に片付けブームが到来し、断捨離や整理収納の本を見ては「私には無理だ…」と挫折している主婦は多いのではないだろうか。私もその中の一人。モノを捨てることで満足し、達成感に満ちて終わり。そうじゃない! 継続が大事じゃないの?と自問自答する日々を過ごし、今日に至っているわけだが…。そんな中、今回取材させていただくのは「整理収納アドバイザー1級」という肩書きを持つ藤田郁子さん。通されたリビングはもちろん整理整頓されていて美しいのだけれど、想像していたミニマリスト的な雰囲気ではなく、家族の笑い声や日常の会話が聞こえてきそうな、温かな空間だった。
「仕事柄、受講生の方に家を見てもらう機会があるんですけど、リアルな我が家を見てもらっています(笑)。食器棚は古いし、いわゆるインスタ映えする空間はないですけど、我が家はこれが住み心地よくて便利な生活ができるんですよ…と、ハードルを下げてあげたいんです。これなら私にもできると思ってもらえると嬉しいですしね。あまりモノを増やさないで、思い入れのあるモノを大切に使いたいというのが私のスタンス。整理収納は頑張りすぎると続かない。自分や家族が居心地がよければそれでいいんですもんね。本来の片付けの目的は、捨てることじゃないんです。その人の生き方、暮らし方を整理することで生活を少しづつ変えて、より暮らしやすくしようというものなんです。捨てた、整理した、ということに充実感を覚えると思いますが、大事なのはその先。そこで何をして、どう暮らしたいのか?ということ。心を整えて、日々の暮らしを見直すきっかけになれば嬉しいですね」と優しい笑顔で話してくれた。一瞬にしてリラックスして話す空間をつくっていただき、取材者である私が先に、心を開いてしまった。
長崎市出身の藤田さん。大分大学教育学部に入学し、卒業後は神戸の一般企業に就職する。その間、阪神淡路大震災を経験することに。「震災が起こった日、私はたまたま休暇をもらって九州に来ていました。住んでいた所は神戸市灘区だったんですが、幸い住居も無事で。でも建物の耐震の問題で、住む場所を違う区に移さないといけなくなり3回くらい引っ越しました。1週間限定で違う場所に引っ越すということもあって、自分では最低限の荷物にまとめたつもりが、重すぎて持てなくて…。だから荷物をさらに厳選したら、かなり少ない荷物で1週間暮らせたんです。こんなに少ない荷物で暮らせるなら、本当に必要なモノって何?ということを考えるきっかけになりました」。
震災、そしてある器屋さんとの出会いもまた、藤田さんに大きな影響を与えた。「コーヒーが好きだったので、近くにあった器屋さんにカップを見に行ったら、そのお店のご主人と奥様がお水を持って来て『水を入れて、ちゃんと持って確かめてくださいね。じゃないと使わなくなるでしょ』とおっしゃってくださって。モノは使うために選ぶんだということを感じた出来事でした。『5枚同じものを選ぶんじゃなくて、器をアレンジしたり好きな器を増やしたいなら、少量で買った方がいいよ』と、楽しみ方も教えてもらいました。今、食器棚にある器は、8割ぐらいはそのお店で買ったもの。一点一点思い入れがあるのでとても大切に使っています。一年中、使っていない器がほとんどない状態です。この神戸での経験が、今の仕事に対する考え方の原点を作ってくれました」。
同じ大学に通っていたご主人と25歳で結婚し、大分に嫁いだ藤田さん。翌年には長男、29歳で長女を出産し、パートや派遣社員の仕事をしながら、子育ての時間を満喫した。ある日、ご主人から「このままでいいの?」と言われ、その言葉に後押しされ自分の人生について改めて考えた。「近所の先輩ママから、40代の就職は難しいという話も聞いていたので、それまでには…という思いもあり、仕事について色々と考えていました。子どもの手が離れる頃には、ちゃんと仕事をしておきたいというのが理想でしたね」。住宅関連の仕事をしているご主人の知人から「こんなのあるけど、一緒に受けてみない?」と誘われたのが、藤田さんが37歳の時。当時、大分で初めて開講した『整理収納アドバイザー認定講座』だった。「この家を建てたのが今から15年前なんですけど、主人が住宅関連の仕事だったので、モデルルームとしてお客様を我が家にお連れすることが度々ありまして。妻としても女性としても、恥ずかしくない程度に家を整えておきたいと自分なりに模索して、これでいいかな?って自己流で整理整頓をしていたんです。でも本当にそれでよかったのかを確かめたくて、整理収納アドバイザーという資格に興味を持って、勉強を始めました。県外まで勉強に行きながら、周りと違うことをやらせてもらっているという事も自分のモチベーションになっていた気がしますね」。二人のお子さんもまだ小学校低学年だったが、大分の中でまだ認知されていなかった新しい資格を取得するというチャレンジ。整理収納業界の需要を感じ、難しいと言われている1級の資格も2009年に取得、講師の資格を得た。
整理収納アドバイザーの仕事を始めて今年で10年目。息子さんも大学生になり、離れ離れの生活を送る。「家を出た時、友達から『寂しいやろー』って言われたんですけど、それが一切なくて。息子のことは大好きだけど、好き勝手にやってもあとはなんとかなるよ!(笑)って送り出しました。もともと放任主義なんで、あれもこれもやってあげる方ではないんです。食に関してもしっかり食べさせてあげられたなとか、子育てをやりきった感があるからですかね、不安も不満もなかったです。息子は、多分この家に戻ってこないだろうと思っていたので『部屋を空っぽにして行きなさい』と伝えたら、本当に空っぽになってて、何も置いていかなかったんです。子どもの方が潔いですね。御膳立てして、新しい生活をスタートさせることも親の役目かもしれないけど、モノはなくても何とかなるし、子どもたちは未来を見てるから、必要ないと思ったものはスパッと手放せるんですよね。未来を見て成長する息子の姿を見ることができてよかったなと思います」。自分の人生を振り返り、これから必要なもの、もう必要のないものを自分で決断させる。息子さんにとっても、それまでの人生を整理整頓する大切な時間だったに違いない。
「家の中では、家族それぞれ気になる所が違うんです。私は出しっ放しのモノは気になるけどホコリは見えない(笑)。でも、主人はホコリが良く見える。娘は、寝る前は部屋が整ってないと嫌な性格で、息子はソファーのラグがくしゃっとなってるのが気になる…。講座を受ける前は私、捨て魔だったんです。新聞とかもすぐに捨てちゃうし。「まだ読んでないのにー」って、良かれと思ってやっていたことが家族にとっては都合が悪かったり…。子どもも成長し親も歳をとり、生活も変わってきたけど、お互いが我慢するんじゃなくて、足りない部分をお互いで補える家族になってきたかな、やっと」。仕事、家庭、子どもとの距離感…。全てが無理なく自然だけど、自分の気持ちにブレることなく、絶妙なバランス感覚を保っている藤田さん。今後はどんなビジョンを描いているのだろう。
「この仕事をこれからも続けていきたいですね。ご家庭に寄り添う形で、暮らしのことに関して頼られる存在でありたいです。大分でもアドバイザーが増えたので、個々の得意分野を活かした連携プレーで、大分県全体の整理収納アドバイザーの仕事がうまく循環していけたらいいですね」。
ご自身の誕生日に、必ずやっている恒例行事があるとか。それは、1年間を振り返り、忘れたくない思い出や言葉をノートに書き留めておくこと。「母子手帳って、子どもが大きくなると使わなくなりますよね。でも見返すと、あの頃のいろんな思いが蘇ってくる。以来、記録することが途切れてしまったので、その代わりに1年の間にあった忘れたくない出来事や言葉をノートに書き留めています。例えば、娘の生理が始まった日の喜ばしくもどこか寂しい気持ちとか、息子に『もうママって呼べん!』って言われたこととか(笑)。毎日は無理でも、一年に一回ならできそうでしょ。私ズボラだし、でもこれならできると思って。デジタルじゃなく、アナログで残しておきたいんですよね。いつか、自分が書き留めた言葉に救われる時がくるかもしれない。これも自分自身の人生の整理。そういうノートを作りたいなって、今企画中です」。
子育てもそろそろひと段落して落ち着きそうだと藤田さん。仕事の範囲も広がり、ますます活躍の場が増えて行きそう。「子育ても終わりに近づくと、必死だった若かりしあの時の自分に『なんでそんなに頑張ってるのー? 子育ての時間は本当にあっという間。今の時間を楽しんで!』って伝えてあげたいです。あの頃は、コーヒーがゆっくり飲める日が来るなんて想像すらできなかった。今はガブガブ飲んでますけど(笑)。私は人前に出たり人と関わることが好きだったので、色んな人の話を聞くチャンスがありましたが、その話を鵜呑みにしないで私の中で噛み砕いて吸収しています。あの人はできてるのに、やってるのに…と、人と比べる必要はないし、あなたはあなたで良いよと、今の若いママさんたちに伝えてあげたいですね」。
藤田さんは、整理収納アドバイザーの仕事を通して、様々な家族を見てきた。依頼を受け、時には1つの家庭を定期的に訪れながら長く関わることもある。「その家の方が『藤田さんがいてくれるだけでいい…。だから、暮らしに関しては頼りにしてるのでお願いします!』と言ってもらったことがあって、それがとても嬉しくて。そんな存在になりたいと“くらしソムリエ”という肩書きを添えました。例えば、お金の事なら保険屋さん、病気の事ならお医者さんという感じで、生活に関する事で困っている事があれば、悩みや思いに寄り添い、それに応えてあげられる存在になりたいですね」。
くらしソムリエ
http://kurasi-somurie.net/
この記事のライター:安達博子
「整理収納とは、モノだけじゃなく今の暮らしを見つめ直し、人生そのものを整理するということ。実はかなり奥の深い作業なんだと感じました。我が家もモノが多く、減らすけれど、また増えるという悪循環。『この先、どう暮らしていきたいか』を真剣に考えて、モノを増やさない暮らしに向き合ってみたいと思います。藤田さんは、一言で言うなら“カッコつけてないけど、カッコいい女性”。仕事にも子育てにもブレがなく、迷いのない生き方は、まるで信念を貫く侍のよう。だから、上っ面だけじゃない、滲み出るかっこよさがあるんだなぁ。取材中、『藤田さん、かっこいいっす!』を何度連呼したことか(笑)。『笑いすぎー?』とおっしゃていた、笑顔がとてもキュートな写真を選びました。この笑顔に、藤田さんの人柄がすべて出ていると思うから…」。