2018.08.17
今回のママ:
本室(もとむろ)朝美さん・38歳・大分市出身・大分市在住
(小学校1年生・年中・2歳の三児の母)
お子さんの好き嫌いをきっかけに、子どもの食育について学びたいと一念発起し、キッズ食育トレーナーの資格を取得。日本キッズ食育協会「青空キッチン」の明治明野校を開校し、自宅で子ども向けの食育スクールを開く。他にインナービューティーアドバイザー、甘酒×塩麹×酵素シロップの認定講師として発酵食品講座も大人向けに開催。親子で楽しめる食育方法などをSNSで配信中!
大分で自分らしく生きるママたちのこれまでを綴るインタビューシリーズ。
今回は「子どもとの今を楽しむ食卓づくり」を目指し、キッズ食育トレーナーとして活動する本室朝美さんのストーリー。
食べることは生きること。赤ちゃんが誕生し、成長と共に母乳やミルクから離乳食、幼児食…と、食事の環境が目紛しく変化する中「好き嫌いが多くて…」「少食で…」「何を作っても食べてくれない」とそんな悩みを抱えるお母さんたちはたくさんいると思う。私の娘もかなりの少食・偏食だったので、手づかみで積極的に食べるお子さんを見ると羨ましく思っていた。子どもが美味しそうに食べる姿を想像しながら一生懸命作った料理。しかし、思いとは裏腹に、顔をプイっと外に向け、口に入れてもベーっと吐きだす始末…。「アーーー!やってられない!」と、一度は泣きながら料理をひっくり返した経験があるのでないだろうか?(私は…ある。今となっては懐かしい思い出だが)。
今回取材した本室さんも、子どもの食に関してかなり悩んだ一人。子どもたちとの食事の時間がどんどん辛くなり、その状況を打破したいと猛勉強。昨年、キッズ食育トレーナーの資格を取得した。
「次女が好き嫌いが激しくて…。それがキッズ食育トレーナーを目指すきっかけになりました。次女が1歳になってすぐに3人目を妊娠したので、妊婦でありながら次女を抱っこして、長女の幼稚園の読み聞かせサークルなどの行事に参加していたんです。それが想像以上にとても大変で…。次女に大人しくしてもらうため、お菓子を無意識であげていたんです。出産の際、実家に長女と次女を預けたら、母から『お菓子を食べすぎじゃない? ご飯もお米しか食べないし…』と言われ…。出産後も、産まれた赤ちゃんを授乳しながら、長女には「ご飯ちゃんと食べなさい」と伝えひとりで食べてもらい、好き嫌いが激しい次女は授乳しながら私が無理やり食べさせる…という状況でした。授乳すると赤ちゃんが寝てしまうので、食事の途中で寝室に寝かせに行って、戻ってきたら長女は泣きながらご飯を食べてて、次女は机に突っ伏して寝てしまって…という食卓でしたね。本当にあの頃は夕飯の時間が苦痛で仕方なかったんです。私も辛かったけど、今思うと子どもたちにも悲しい思いをさせてしまったなと思います。この状況をなんとかしないと!と思った時に知ったのが、キッズ食育の資格だったんです。食事面・料理面はもちろんですが、キッズ食育は子どもの保育、特に「心の栄養を摂る」ということを大切にしていたので、料理の苦手な私にもできそうと思ったんです。『赤ちゃん抱えながら、よく勉強したよね。すごい!』と言ってもらうこともあったんですけど、あの頃の辛さに比べたら、授乳時間の合間で勉強することは全く辛いことではありませんでした。そこから抜け出したい!という切実な思いが強かったんですね」。
本室さんの話を聞いていて、食事の風景がすぐに思い浮かび、昔の私とリンクしてちょっと泣きそうになった。どうしたら食べてくれるの?どうしたら楽しい食事になるの? 母親なら誰もが一度は経験したことのある苦しい思い。そこにどっぷりと浸かってしまったら、どこまでも落ちていきそうな感覚。だけど本室さんは違った。負のパワーを跳ね返し、新しい扉を開けた。
実は本室さん、前職は全く畑の違う業種で仕事をしていた。ブライダル事業のエージェント設立の立ち上げに関わり、その仕事が大好きだったそう。
「プロジェクトの立ち上げから関わったので仕事にもとても愛着があって、大好きでした。だから、長女を出産した時は早く復帰したいと、生後8ヶ月で復職しました。結婚式や式場などの相談を受ける業務だったので、仕事帰りに立ち寄るお客様が多く、帰宅時間はどうしても夜の9時を過ぎていました。帰宅する頃には、主人が長女を寝かしつけてくれていました。私と主人との休みも合わず、家族3人で出かけるなんて皆無で…。子どもが熱を出した時は、パパの方が安心するみたいで、私には来てくれず悲しい思いも。当時は主人にかなりの負担をかけていたと思います。それで『このままじゃダメだ』と、二人目の出産を機に仕事を辞めました。頭の中では育児と仕事は両立できると思っていたけど、現実は難しかったですね。こんなに好きだった仕事を手放すんだから、仕事で家庭を犠牲にすることは二度としまい! じゃないと仕事を辞めた意味がないと思ったので、今は無理せず、自分ができることを楽しんでやるようにしています。もちろん100%やりたいことがやれているわけではないですが、自分の中の“楽しい“という感覚を信じて、無理しないで進んでいきたいです」。
キッズ食育トレーナーの仕事は、どうしたら子どもが食への興味を持ち、楽しく食べることができるかを、保育という側面からも考えて取り入れていこうという目的を持っている。もちろん栄養面・調理方法も大事だが、好き嫌いは生まれつきではなく、後天的な要素が大きいと本室さんが教えてくれた。
「3歳から9歳までの間が、一番食に興味を持つと言われています。だけどお母さんたちが子どもの好き嫌いに悩む時期でもありますよね。口から吐き出したり拒絶したものを嫌いな食べ物として認識して、それ以降、大人が嫌いなものとして排除することで、どんどん嫌いになっていくと考えられています。でも、実はその背景にいろんな要素が隠れていることが多いんです。例えば、食事中に両親が喧嘩をしたことでその時に食べていたものと嫌な思い出がリンクして嫌いになってしまったり、味ではなく口触りが想像していたものと違って吐き出したりと、要因は味だけではないんです。プチトマト、あれは大人にとっては小さいかもしれませんが、小さな子どもに取っては大人が普通のトマトを丸ごと口に入れているのと同じなんです。だから小さくカットしてあげるだけで食べられるようになったりします。でもそれって、子ども目線に立って見ないと気づかないことなんです。教えてもらうと『確かに!』って思うんですが、日常の忙しい中で思いつくのはなかなか難しいですよね。だから、ちょっとしたコツを知って実践できるよう、みなさんに知識やヒントを少しでもお伝えできたら嬉しいです。私自身も分からず不安だったことが勉強したことでクリアになり、3人の子どもたちで実践できたので自分の中にも余裕が出てきました。実際、今一番下の子どもがイヤイヤ期ですが『大丈夫。そんな時期だから焦らなくていいんだ』って思えるようになりました」。今では、あれほどまで苦痛だった食事の時間が大きく変わったそうだ。「お姉ちゃんは好き嫌いなく野菜も食べてくれます。次女は今もお野菜を好んで食べているわけじゃないみたいですが、少しづつ食べられるようになり『お味噌汁は栄養満点だからこれだけは食べようね』というと食べてくれるようになりました」。
でも一番変わったのは夫婦の関係だと本室さん。それまで夫婦での会話は少なかったそうだが、本室さんが子どもに余裕を持って接することができるようになってからはご主人が以前よりも優しくなり、今では一番の良き相談相手になっているそう。余裕ができると不思議と笑顔が増える。笑顔が増えると家庭の中が明るくなる。やっぱり母親は家族の太陽なんだな…と本室さんの優しい笑顔を見て、改めて感じた。
食を通じてやりたいことは山ほどある!と本室さん。色んな企画が、泉のようにどんどん湧いてくる。今年の8月20日には、ミス・ユニバース・ジャパン大分のお姉さん達と子どもで郷土料理を作るイベントを開催。夢を追いかける輝く女性たちに出会うことで、子どもたちが刺激を受けてくれれば…という思いが込もっている。そして、今温めている企画が2つあるそうだ。1つは、式場で模擬挙式を行いながら子ども達に晴れの席での食事マナーや嗜みを学んでもらうというイベント。前職で感じた思いや体験・知識を生かし、企業側にもメリットのある仕掛けをしていきたいと言う。そしてもう1つはアラブの料理教室。お友達が作ってくれた現地の料理があまりにも美味しく、あまり馴染みのない異国の食文化に触れる機会も作ってみたいとか。
「私はレシピを作ったり料理がどうも苦手みたいなんです。昨年1年間、できる範囲で目一杯仕事をしてみて分かってきたことなんですけど、自分の苦手なことと得意なことが見えてきました。得意なのは企画を立てること。『こういうことしてみたら喜ぶかな?』とか、もともと楽しいことを企画するのが好きなんです。だから不得意なレシピやお料理は得意な人にお任せして(笑)。“食”って老若男女、年齢や国籍、性別問わず、誰もが楽しめる文化じゃないですか。だから食を入り口にして、いろんなものを繋げてみたいって思うんです。この前、子ども達とパエリアを作ったんですけど、我が家の壁に貼っている世界地図を見ながら『スペインの料理だよ』って説明をしたら、サッカーをやっている子どもが「サッカーが強い国だよね!」って話がどんどん広がっていったんです。この連鎖反応ってすごく楽しいことだなと思って。食をきっかけに世界への興味が広がることも素敵だし、様々な企業とコラボして需要と供給を上手に繋げることができたらなぁって。まだまだ構想段階でしかないですけど、前職の経験を生かして、実現できるように動いてみたいと思います!」。
「食」を通じて、子どもたちの可能性を広げていけたら、と本室さん。「食育」=様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てること。ウィキペディアにはそう書かれている。食育といえば、今までは健全な食生活ばかりを意識していた気がする。様々な経験を通じて食べる楽しさを知ることが、子ども達には本来必要なことではないかと、今回の取材で感じた。これから、本室さんが「食」を五感で楽しく体感できる場所を作り出し発信してくれると思うと、新しい何かに出会える気がして楽しみで仕方ない。
青空キッチンホームページ
http://aozora-kitchen.com/
本室朝美さんBlog
https://ameblo.jp/amethyst24ldcolt
この記事のライター:安達博子
「私、料理が苦手で」と公言するところに、逆に親近感を覚えました。だって、世の中、インスタ映えする料理が作れるママばかりじゃないと思うから。料理が苦手なママもたくさんいます。苦手なものは苦手、だけど得意な部分はどんどんやっていきたい!という、とても自然体な本室さん。取材時に出してくれた味噌のクッキーは、「袋に材料を入れて混ぜて焼くだけですよ(笑)」と言ってましたが、優しくて味わい深いおやつでした。発酵食品を学ぶきっかけになったのも、おやつばかり食べるお子さんを心配して、腸の健康を知りたいという思いから。好き嫌いも、一度子どもの目線に立って考えると思い当たることがあるかもしれません。体は食べ物で作られていると聞きます。何を食べるかは大事だと思いますが、食べるまでの過程も大事にしてあげたいと思いました。悩んだり迷った時は、本室さんが発信するSNSをのぞいてみてください。どこかにそのヒントがあるかもしれませんよ。