2019.01.29
今回のママ:
石井良佳(みか)さん・37歳・由布市出身・大分市在住
(小学6年生・小学3年生・幼稚園年中の二男一女の母)
どうしてあんな酷い事を言ってしまったのだろう、親として伝えたいことがあるのになんで上手に伝えられないんだろう…。どんなママでも、子育て中に「怒る」ことについて悩むことがあるのではないだろうか。怒りの感情をコントロールする「アンガーマネジメント」について勉強し、ファシリテーター(指導者)の資格を取った石井良佳さんもその1人だ。
大分で自分らしく生きるママたちのこれまでを綴るインタビューシリーズ。
今回は、怒りをコントロールするアンガーマネジメントのファシリテーター・また保健師さんとして多忙な日々を送る石井良佳さんのストーリー。
待ち合わせは大分駅ビル内のカフェ。颯爽と現れた石井さんの笑顔に、懐かしさと親しみを感じる。以前ママスタイルで紹介した大鶴めぐみさんの妹さんだ。どうりて、周りを一気に明るく照らす太陽のような、同じオーラを放っていた。姉妹で「ママのまま」のママアンバサダーとして、現在は3月23日(土)に行われる「ままいろフェスタ」の企画運営に積極的に関わってくれている。私たちにとっても心強い存在だ。
石井さんは三姉妹の末っ子。大好きなお姉ちゃんの背中をずっと追いかけてきた。両親が中学生の時に離婚したこともあり、2人の姉はそれぞれ働きながら看護師、美容師の資格を取得する道に進んだ。「じゃあ私はどうする?」…。自身の進路に悩んだ結果、お姉さんと同じ看護師を目指すことに。大分医科大学医学部看護学科に見事合格し4年間猛勉強。卒業後は大分大学医学部付属病院の小児科に配属され3年間勤務。同じ大学の同級生だった現在のご主人と25歳で結婚し、結婚を機に仕事を辞め、同年に第一子を出産した。
「出産後は専業主婦になりました。お姉ちゃんたちもその頃専業主婦だったので憧れもあって…。専業主婦になって子育てに集中したいと思ってたんですが、子どもが生まれたら、自分の思い通りに動いてくれないし、言うことも聞いてくれなくて、ひたすら怒鳴り散らす日々が続きました」。石井さんの柔和な笑顔からは、怒っている姿が全く想像できなかった。
「そうなんです。みんなに『えー!全然怒らなさそう』って言われてました。外に出るとイライラすることはあまりないので笑顔でいられるんですけど、思い通りにならないことが本当に嫌で、家では、端から詰め寄るみたいな怒り方をしてました。そうすると、怒ってることや、それを繰り返す自分が嫌になってきて…。外ではいいお母さんぶってるのに、家ではフィルターも通さず嫌な部分を子どもにぶつけてるひどい母親だなって。イメージとのギャップもあって自分に嘘をついている感じがして、すごく苦しい時期でした。お姉ちゃんたちの子どもは『ダメだよ』と言ったら聞いてくれるのに、自分の子どもはそれどころか暴れ出す始末。『それぐらい真剣に子育てに向き合ってることだよ。まだ1歳だしできないのは当たり前だよ』という姉からの助言も、その時は救われるけど、結局何も変わらない自分がいて、姉の前で泣いたことも…。自分のことも嫌い、子育てから逃げ出したい、もしかしたら子どもの前に自分がいない方がいいんじゃないか?…とまで考えたこともあります」。
「引いちゃうかもしれないですけど」と前置きして、こんなエピソードも話してくれた。「私、モノに当たるタイプで、ひどい時はその辺にあるものを投げ散らかすんですけど、一度子どもの木の椅子を投げたことがあって。賃貸だったのに、床がえぐれちゃいました。頭が真っ白で、その時の子どもの様子は正直あまり覚えてないんです。自分で自分を抑えきれない感じでした。虐待のニュースを見ると『こんなに大切な子どもに…信じられない』って憤りさえ感じるのに、椅子を投げた後『私はいつか、この子たちを殺してしまうかもしれない』って思ったんです。本当に紙一重だなって…」。
冷静さを失い、感情のまま怒鳴った後の後悔はこの上ない。それを繰り返してしまう、学びのない自分にも心底呆れる。石井さんの気持ちを何度味わったことか…。同じ母親業をこなす身として、彼女の気持ちが痛いほど分かり、苦しくなった。
「私だって怒りたくて怒ってるわけじゃない!」。自分を責めながらもがく日々が続いたある日、救いを求め「子育て・怒り・どうにかしたい」というキーワードをパソコンで検索した。すると、たまたまその週に、アンガーマネジメントのキッズインストラクターの勉強会が家の近くで開催されることを知る。
アンガーマネジメントとは、1970年代にアメリカで開発された、怒りの感情と上手に付き合うための心理教育、心理トレーニングのこと。子どもにアンガーマネジメントを教えるインストラクター養成の講座だったが「きっと今の私に役立つことがある」と、藁にもすがる思いで駆け込んだ。
「『怒り』という感情は誰もが持っていて、それを出すことは悪いことじゃなく、出し方の問題。感情ってたくさんあって、どれもマルだけど感情の出し方を間違うと、お友達を傷つけたり自分も嫌な気持ちになるから、じゃあどうやって伝えたらいいかな?」。ワークブックを読んで目から鱗だった。「‘怒ってもいいんだよ’って言われた気がして心が救われ、気持ちが少し楽になったんです。受講したその日は1日ハッピーになれた感覚があって、これをもっと勉強して、同じ気持ちで苦しんでいる人に伝えたいと思い、ファシリテーターの資格を取得しました」。
現在、アンガーマネジメントファシリテーター・キッズインストラクターとして、講座や研修、講演会の活動を行なっている石井さん。昨年の春からは、新日鐵住金大分の保健師として週3日のパート勤めを始めた。働く人たちが病気になるのを予防し、健康な状態で生活できるお手伝いをする保健師の仕事は、「普段の食生活は?」「運動はしてますか?」「ストレスは溜まってませんか?」という問診から全てが始まる。
「振り返ってみると、私は人の話を聞いたり、気持ちに寄り添うことが好きなんだろうなと思います。看護師時代も、メンタルケアが必要な患者さんの担当になっていましたね。微力かもしれないけど、側にいることで何かが楽になったって思ってくれたら嬉しいというのが根底にある気がします」。
アンガーマネジメントのファシリテータも、“聞く力”が必要とされるお仕事だ。話を聞くのが上手な人は、伝える力がある人だと常々感じている。まずは相手が何について悩み、求めているのかを感じ取り、そのヒントや答えを返すことでコミュニケーションが成立する。どんなことでも笑顔で聞いてくれそうな石井さんには、何でも話せる気がするのだ。
保健師として勤務する石井さんの一日のスケジュールを聞いてみた。
朝6時に起きて弁当を作り、7時半に家を出て一番下のお子さんを幼稚園に送り、8時過ぎには職場に到着し業務開始。17時に仕事を終え子どもを幼稚園へお迎え。帰宅後は晩御飯を作り、お風呂に入り、子どもの添い寝をして、自分も朝まで一緒に寝るという日々…。隙間ないスケジュールをこなし、一日を突っ走ってあっという間に終わる。働くママはみんなおんなじだ。
「外食が増えたり、掃除が減ったり、子どもの宿題の丸つけが雑になったり(笑)、仕事と子育て・家庭の両立ができているか?と聞かれたら、できてる! とは言えないですよね。毎日、子どもと一緒に寝落ちしてしまうので、欲を言えば、自分の時間を作るためにもうちょっと起きてたい(涙)。週末にアンガーマネジメントの仕事が入ると、一週間ずっと外に出っ放しです。その場合は主人が子どもたちの面倒を見てくれ、協力してくれるのでとても助かっています。以前の自分ならそんな自分をダメだと否定していたかもしれないけど、それも仕方ないと自己肯定できるようになりました。自分の嫌な部分が出てしまう子育ては、正直得意じゃないのかもしれません。できることなら主人が子どもたちを見てくれる方が楽だし(笑)。だけど、私と一番ぶつかり合った長男は家族が一緒にいることに強いこだわりを持っているんです。もしかしたら、自分のせいでママがここにいないんじゃないかって思わせてる部分もあるのかなって…。長男とは素の自分でぶつかってきたから、私の嫌な部分も弱い部分も一番見せてるんです。傷をえぐるような酷いことを言って彼をたくさん傷つけたと思うけど、逆に腹を割って話せる存在。どこかで彼が一番私のことを理解してくれていると思っています」。
「喧嘩するほど仲がいい」。裸でぶつかり合ったからこそ、分かり合えることがたくさんある。コミュニケーションを避ける親子よりも「怒り」によって、石井さん親子はたくさんの学びを得たのかもしれない。
最後に、悩んでいるママたちへアドバイスをもらった。「アンガーマネジメントを学び、私自身も叱り方は大幅に変わったと思います。とりあえずカーッとなったら『6秒待つ』。冷静になると、子どもたちを傷つけたくて怒っているのではなく、本当に伝えたかったことが明確になってくるんです。深呼吸をするとか、目の前のことに集中するとか、思考回路をあえて止めるとか、ただただ数を数えるとか…なんでもいいんです。とはいえ、未だに瞬間湯沸かし器みたいに感情的な怒り方をして落ち込むこともまだまだあるんですけどね(笑)」。
子育てが苦手だなんて、そうそう簡単に口にはできない。でも、堂々と正直に、ありのままを見せてくれた石井さん。怒りに支配されていた頃の殻を破り、今ではその‘怒り’を糧にして、多くの人を支える存在となっている。これからも、たくさんの人を笑顔に変えていってくださいね。
この記事のライター:安達博子
「母親が日常的に後悔していることって、子どもを怒ったあとじゃないですか? 『私ってこんなに気が短かったっけ…』と、今まで気付かなかった嫌な部分が露呈して、自分のことが嫌いになったり、戸惑ったり…。私も同じく!です(涙)。石井さんに教わった6秒ルール、口が達者な小6女子(娘)で昨日早速実行してみました。すると、本当に伝えたいことが明確になって、怒りが建設的な話し合いに変わりました。すごい! 次も忘れないように実行してみよう! 私より随分年下なのに、なんだろう…石井さんといる時のこの安心感。きっと、たくさん悩んでもがいた分だけ、人を包み込む優しさを得たんだと思います。石井さん最強の武器“笑顔”で、これからもたくさんのママや働く人たちを包み込んでください。3月23日のイベントも楽しみにしております!」