コミュニケーションツールの言語
だから英語も〝当たり前のもの〟
前情報がすごすぎる…。今回取材させていただくママのお子さんは、小学校2年生にしてかなり厚みのあるハリーポッターの洋書を読破したらしいのだ。「どうやったら、そんな子どもに育てられるの?」。これからの時代を生き抜くには英会話は必須。インターナショナルな人材になるためにも絶対条件だ!という気持ちがあったのにも関わらず、我が子の英語教育は失敗に終わりそうな雰囲気…。そんな残念な想いを抱えつつ、興味津々でご自宅へおじゃました。
玄関を開けて圧巻。壁一面の本棚にデザイン性の高い色鮮やかな洋書がずらりと並び、まるで図書館のよう。BGMには英会話のCDが耳障りのない音量で流れている。ここは仕事場でもあり、子どもの遊び場。あざれさんにとってとても大切な空間なのだ。出していただいたコーヒーのカップには、懐かしい「スイミー」の世界が描かれていてほっこりする。
出身は福岡県。大学で上京し、卒業後は貿易会社に勤め、16年間東京に在住していた。英語に加えて中国語、ポルトガル語、タイ語など3、4ヶ国語喋れるのは当たり前という職員ばかりで、職場内は常に多言語が飛び交っていた。
「そんな環境の中で仕事をしていたので、英語すらまともにできない私ってなんなんだろう…っていつも思っていました。日本人って、英語は特別なものという感覚が今でもどこかにあると思うんです。でも人と人とのコミュニケーションを図るものが言語だから、特別なものではないし当たり前のものだと思うんです」。
確かに日本人くらいじゃないだろうか。母国語以外を喋ることに難色を示し、それを困難だと感じている人種は…。国際言語である英語でさえ、あくまでもテストで合格するための勉強の一環という感覚が今も払拭できていない。本来はコミュニケーションツールとして、楽しむべき〝英語〟のはずなのに…あざれさんの話を聞いて改めてそう感じた。
東京在住時に現在のご主人と出会い意気投合。27歳で結婚し、28歳の出産前まで働いた。
「貿易の仕事では、当たり前ですけど書類関係やメールなどは全て英語でのやり取り。だけど、ビジネス英語ができる=ネイティブな英会話ができる、ではないんですよね。私は子どもたちが小さい頃から生活の中に英語を取り入れてきましたが、その際に使う英語とビジネス英語は全くの別物なんです。子育て期間に使う英語って意外と知らないんですよね。例えば『オムツ』を英語でなんて言うのかわからないですよね。なので、そこは一から覚え直しました。幼児に語りかける言葉って『靴履こうね・お風呂入るよ・手を洗おうね』とか、難しい英語じゃないし、会話もまだ一方通行なので語りかけのフレーズを覚えて繰り返せばいいだけ。だから一日1フレーズ覚えればいいから、実はそんなに難しいことじゃないんです。英会話に通ったけど忘れてしまった…という人と、その経験を活かせる人の違いは、教室以外の生活の中で英語を使っているか否かだと思います。生活に英語を落とし込むことが大事。ネイティブの英語が話せる子どもというのは、この時期に英語で語りかけしてもらって育ってるんです」。
そうやって、あざれさんが始めたのが英語絵本の読み聞かせをメインとした英語育児「おうち英語」だった。この「おうち英語」を簡単に説明すると、言語を学ぶための絵本と、感性を育てるための絵本の二本柱で、子どもたちが小さい頃からそれぞれを家庭で読み聞かせ英語に触れ合っていくというもの。娘さんにも生後十ヶ月くらいから英語絵本の読み書かせを始め、1歳になる頃には「この絵本はどこにあるかな?」という英語の問いかけに対し、絵本をすぐに選べるまでになったそうだ。その成果を目の当たりにしたママ友から「うちの子どもも教えて欲しい!」とお願いされるように。
「オリジナルの教え方なので、教えるというレベルではなくて…。でも、娘のお友達限定でということでホームティーチャーを始めたのがこの世界にのめり込んだきっかけです。我が子ならまだしも、他のお子さんを教えるとなると適当にはできない。だからそこから、いかに飽きさせないで英語を楽しんでもらえるかを試行錯誤しながら、いろんなアクティビティのものを取り入れたり研究したりしていたら、絵本がどんどん増えていったんです。頂いた月謝を元手に、いろんな英語絵本を買い揃えて…と自転車操業的な感じでやっていました。自分の子どもと一緒に、お友達の子どもも教えられるなら…と、一石二鳥な形であればやれるなと思って始めました」。
ある日、お友達から「これはお金を払ってでも聴きたい内容。講座を開いてみては?」と言う提案があり、セミナーを開くことになった。セミナーを開いてみると、需要の高さに驚いた。新幹線や飛行機で東京までセミナーを受けにやってくる人もいたそうだ。
「そこからはいろんなところから声をかけていただき、出張講座で全国行脚していました。でも、そのタイミングで主人が大分転勤になったんです」。
私の今の環境と時代が
ちょうどマッチしたんだと思います
2018年に、東京から大分に一家で引っ越し。環境もガラリと変わり、セミナーの仕事も波に乗っている最中の大分での生活に戸惑いはなかったのだろうか。
「私は大の東京好き。飽き性だし、多趣味ということもあり、常に進化していきたい生き物なので新しい情報が入ってくる東京は最適な場所でした。大分に越してきてからは優しい友達にも恵まれ、東京ではありえない新鮮な野菜を頂くことがあったり…と子育ての環境としてはとても恵まれているなと感じました。大分に来て一番悩んだのは、本屋さんに洋書が置いてないこと。でも逆を言うと、これだけ少ないなら需要もあるんじゃないかと思いました」。
心配していたセミナーの仕事はコロナ渦の影響でオンライン化され、これまで約2000人が受講した。
「東京まで受講しに来れなかった方や、離島に住む方、海外に在住する方も気軽にオンラインでセミナーを受けてもらえるようになりました。東京じゃなくても、どこでも仕事ができると分かったのは在宅ワークが当たり前になった時代の流れでもありますね。そして、この分野の需要がすごくあったんだと改めて実感しました。ありがたいことに私の今の環境と時代がマッチングしたんだと思います」。
順風満帆に見える、あざれさんのこれまでの道のり。子育てで落ち込んだり、悩んだりしたことはなかったのだろうか。
「一人目の子育てはすごくセンシティブでした。少食な娘で、離乳食も食べてくれず水も飲んでくれない。今だと『お腹空いたら食べるから気にしないで大丈夫』で片付く問題だけど、だんだんと食事の時間にストレスを感じるようになって精神的に追い込まれ、食事の時間になると過呼吸を起こすように。あの時はとにかく必死でしたね」。そんな子育てでの経験が、今ではSNSを発信する際に役立っているそう。「SNSの世界って理想を見せる場所と思われがちだけど、子育ては綺麗事じゃないですもんね。完璧な自分じゃないのが当たり前なので、完璧ではない経験談の投稿をすると皆さんから『気づきをありがとう』とか『思い出しました』ってメッセージを頂くんです。育児って反省しながら前進していくものじゃないですか。そして正解がないぶん、どこまでやっても後悔の連続。だから私の経験が誰かの気づきにつながると嬉しいんですよね」。
子育ての話ついでに、これからお子さんがどんな風に育って欲しいか尋ねてみた。
「子どもの将来のビジョンは私の中では描いてないんです。子育てをする中で、今押さえておきたいことや、やりたいことを最善で伝えているつもりなので、その上で彼や彼女がどう判断するかはそれぞれが決めていくこと。本人がやりたいように進んでいけばいいと思うんです。今や、職種って私たちが選べる次元ではないと思うんです。ユーチューバーという今まではなかった新たな仕事でお金を稼ぐ人もいるし、私たちが想像もつかない職業がこれからも生まれてくるでしょう。私自身もそこに少しあやからせてもらっている経験者でもあります。もともと一般人だった主婦がインスタグラムで多くのフォロワーの方に支持をいただいて、そこから企業の方に声をかけていただきタイアップイベントなどの仕事もいただくようになってきた。これも新しい働き方だと思うんです。人間形成だけしっかりしておけば、子どもたちはその流れに乗ってどんなものでも選び取れるはずだと信じています。学力で判断されるのは大学までの話。社会に出たら最終的には人間力が試されることになります。経験や知識をそれまでに積み上げ、生きる力のある人になってくれたらいいなと思っています」。
人間形成にかかせない性教育を
絵本を通じて伝えたい
『自分の〝楽しい〟を追求して来たら、今の形になった』とあざれさん。
「今はこうやって絵本の仕事をさせてもらってますけど、それは子どもたちが必要としている旬なことだから。私にとって今必要のないものを仕事にするという観点がないんですよね。好きなことを仕事にしたいので、子どもたちが成長すればまた違うことをやりたいと思うのかもしれません」。
英語絵本の次に、今、気持ちが動いているものがあるという。それが絵本を通じて伝えたい〝性教育〟。日本ではまだタブー視され、教育現場や家庭でもまだまだ戸惑うことの多い分野でもある。そういった点では、端的にわかりやすく、きちんとした言葉で伝えてくれる絵本は最適だとあざれさんは言う。
「性教育=防犯とか、いかに被害に遭わないようにするかとか、加害者にならないようにという目線での教育になっている感じがします。でもそれよりも前に伝えるべきことがあるんじゃないかと思うんです。性教育って人間教育だと思うので、LGBTQ教育など性の多様性を含め、いろんな人がいて、いろんな意見があっていいということを教えることだと思うんです。これって人間形成にすごく関わってくるとても大切な教育だと感じています。それを絵本で伝えていけたら…」。
昨年11月より『親子で育む絵本de性教育』というタイトルでセミナーを開講した。レジュメの中にはあざれさんが厳選した性教育にまつわる絵本のブックリストを添えた。すると様々な反響があったそうだ。
「受講された方の中で多かったのは教育現場に関わる方でした。学級文庫に本を導入したい、学校図書に追加したいとご意見や要望をいただきました。1年半ぐらいの時間を費やしてセミナーの組み立てを考えてきたので、教育現場でリアルタイムで役立ったことが私もすごく嬉しかったですね」。
取材を終え、もう一度子育てをやり直したいと心底思った。10年前にあざれさんのような存在の人との出会いがあれば、もしかしたら英語が大好きな娘に育っていたかもしれない。「今更手遅れですけどね…」という私に「お孫さんがいるじゃないですか!」とひと筋の光を与えてくれた。
現代のママたちは、自分の経験から学んだ知識を惜しげも無く分け与えてくれるこんなママがいて、本当に幸せだと思う。羨ましい限りだ。子育てを終え、世間が求めているまだ見えていない「何か」を形にして七変化するあざれさんが眼に浮かぶ。これから私たちが必要とする「何か」をキャッチし、それを提供してくれる日が来るかと思うと、今からワクワクしてくる。
この記事のライター:安達博子
小さい頃から、お母さんに美術館と図書館に連れて行かれる日々を過ごしていたというあざれさん。追体験というか、やっぱり母親の子育てって娘に大きく影響するんだと思うと、娘がいつの日か母親になった時、本当の意味で自分の子育てが完結するのかもしれない…と取材をしながら考えさせられました。あくまで勉強の中の英語から、コミュニケーションが取れる楽しいツールとしての英語になるための教育ってやっぱり日本の教育では難しいのかなぁ。外国の人と話しができたらどんなに世界が広がって楽しいだろう!と思ってしまいます。早くあざれさんに出会えてたら、英語が好きな子どもに育てられてたかもしれないなぁ…。自分が好きなことをやっていたら需要があることを知り、それをビジネスチャンスに結びつけるアンテナと実行力、そしてプランニングする力。常に学ぶことを厭わない才女であり、潔い良さかっこよさのある女性でした。これからも私たちが求めるものを形にしてくださいね! すごく楽しみ!