MAMA STYLE様々なママの様々なスタイルを
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2021.10.12

92センチの世界で、
オトナ女子の魅力を撮り続けたいです

木村智美さん[写真家]

今回のママ:
木村智美さん[写真家]
37歳・宮崎県出身・大分市在住(5歳の男の子の母)

コロナ渦にも負けず、輝きを放っている大分のオトナ女子を主役にしたインスタグラム「YOUR STYLE PHOTO」を企画・運営している、写真家の木村智美さん。息子さんの出産を機に撮り始めた写真。身内の死や、孤独だった子育ての時間を経験し、写真が持つ力や大切さを実感した彼女が、今、大分の女性たちを撮り続けている想いとは?

空白の2年間を埋めてくれたのは
笑顔の自分が写った写真でした

偶然見つけたインスタグラム。写真には、知人がモデルとなって写っていた。薔薇の花を持ち、凛とした佇まいや内面から出る美しさが写真からにじみ出ていて、彼女を一層魅力的に見せていた。インスタグラムのアカウントは「YOUR STYLE PHOTO 」。大分県在住の女性たちの生き様や魅力が写真に焼き付けられ、彼女たちが綴った想いやメッセージ、最後には花言葉が添えられていた。

この企画をディレクションしているのが、今回取材させていただいた写真家の木村智美さん。長い黒髪と大きな瞳、アシンメトリーなピアスが印象的で、洗練された都会的な雰囲気の女性だった。待ち合わせは市内の喫茶店。早速各々で注文する。「ホットコーヒー」「カフェラテ」「メロンソーダ」。ん?メロンソーダ? 一瞬、間が空いた。「コーヒーとか、紅茶とか得意じゃないんですよね」。大人ならコーヒー、紅茶って誰が決めたんだろう…。「メロンソーダが好きなんです」と屈託のない笑顔でそう教えてくれた智美さんに、一気に親近感を感じた。



宮崎県出身の智美さん。お父様の仕事の関係で宮崎県から茨城県へ引っ越し、小学校6年生の時に福岡県豊前市に移り住んだ。地元豊前市の高校を卒業後、エステの国際ライセンスが取得できる福岡市内の美容関係の専門学校に進むが、ホームシックにかかり中退。その後実家に戻るも、刺激を求め再び23歳で福岡市内へ。そんな矢先、25歳の時に最愛のお父様が他界。それをきっかけに、再度実家に戻り、パートで働く日々を送る。その時に現在のご主人と出会い30歳で結婚。結婚後、ご主人の仕事の関係で大分市内に引っ越してきた。その後、介護施設で働きながら介護福祉士の資格を取得したが、妊娠がわかり仕事は辞めることに。

「父が亡くなった後、母が家を建てた中津市で暮らすことになりました。妹たちも中津市内で暮らしているんですが、私は結婚を機に大分市内に引っ越したので、誰も知らない土地で一人ぼっち…。32歳で出産したんですが、周りに友達も知り合いもいなくて、あの時は孤独でした」。

もともと人見知りの激しい性格だったと智美さん。友達を作ろうと子供ルームなどに出かけ努力してみたものの、逆にその毎日に疲れてしまった。「私、コミュ障なんです。自覚もあったけど、大分市に引っ越してきて、それが一層強くなって…。周りの目が怖かったり、人の表情や目の動きがすごく気になって緊張するんです。だから友達もなかなかできなくて。出産後、保健師さんに心配されるぐらい落ち込んでいました。子どもが2歳になるぐらいまでの記憶が全くなくて…。私の元に生まれて幸せなのかな…とか、私この子に笑いかけてるのかな…とか、時には子どもに『もうこっちに来ないで!』って泣いて言うこともあるぐらい病んでたんです。だけど、ある日、子どもが産まれるのをきっかけに始めたカメラで撮影した写真を見返してたら、ピントは合ってないんだけど、何気に撮ってた写真にくしゃくしゃに笑う私が写ってて、この子にかけた愛情がすごく伝わってきたんです。写真を見ることで、自分の頑張りを認めることができて、空白だった2年間の私の心を埋めてくれた気がしました。絶対に忘れたくない!覚えていたい!っていうことを忘れてしまうこともあるけど、写真はその瞬間の想いを残せるもの。すごく素敵だなって、写真が持つ力を実感した瞬間だったかもしれません」。

夫が撮ってくれたくしゃくしゃな顔の写真


写真家を目指すきっかけになったもう一つの出来事は、お父様の死だった。「父が亡くなってから、家中にある父が生きていたカケラを必死で探してましたね…。SDカードとかCD-Rに書かれた父の文字を見たり、使わなくなった携帯の電源を入れて写真フォルダを見たり。…この話をすると泣いちゃうんですけど…すみません。それを家族みんなで探し続けた日々があって。今になって思うことなんですけど、写真って見返した時にものすごいパワーを発揮すると思うんですよ。心を癒してくれたり、力をもらったり。誰にでも明日がくるわけじゃない。だからその時を残しておくことって、残された人たちにとっては本当に大切なことだなって思うんです」。
   
子どもが生まれたことをきっかけに、カメラを購入し写真を撮り始める人は多いように思う。我が子の成長を一瞬でも逃したくないという想いで、シャッターを切る。大きく成長した我が子といくら喧嘩をしても、小さかった頃の写真を見返せば「元気でいてくれるだけでいい」と、あの頃の自分に戻り、多くを求めすぎる今の自分を反省する。私自身も母を亡くし、今でも生前の写真を見ると涙が出てくる。同時に、母への感謝の気持ちが湧き笑顔にもなれる。智美さんの話を聞いて、写真が与えてくれる力を、私自身も改めて実感した。

大好きな夫と息子の写真

できないことを捨てたからこそ
今、できることが見えてきた

お父様を亡くし心が消化できぬまま、見知らぬ土地での出産。産後うつに近い状態の日々に苦しんでいた智美さんを救ったのは、カメラであり、写真を撮るということだった。お子さんが産まれ、家族の記録を残したいと手にしたカメラだったが、ある日、英会話スクールで行われるファミリー向けのイベントで写真を撮って欲しいという依頼が舞い込み、そこから子どもを撮影する機会が増えてきた。

「大分には、お子さんを上手に撮影するカメラマンの方が多くて。そういう写真と自分の写真を見比べるようになって、それがなんか苦しくなってきたんです。じゃあ、違う被写体を撮影しようと考えた時、コロナ渦で頑張ってる〝大分のオトナ女子を撮ろう!〟と思いついたのがこの『YOUR STYLE PHOTO』という企画でした。ターゲットは30歳以上だったら、90歳のおばあちゃんでもオッケー。女性って〝誰誰ちゃんのママ〟って言われることが多いけど、私は一人の女性として向き合いたかったんです。私の周りにも、本当に魅力的な大人の女性は多いし、そういうオトナ女子を撮ってみたいと思って、この企画を始めました」。
 
1年間限定で活動を開始し、これまでに10名以上の大分の女性を撮影してきた、事前に顔合わせをして、その人となりや雰囲気を見ながら似合うメイクや写真の雰囲気を決める智美さん。メイクアップアーティストの方にもボランティアで協力してもらい、撮影を行う。



「その人のパーソナルな部分を撮りたいから、その人らしさが残るようできるだけメイクは最小限にしてもらってます。メイクさんたちは実力のある方ばかりなので、綺麗にしようと思えばできると思うんですけど、あえて素顔に近い形でメイクしてもらっています。シミやシワとかって、その人が生きてきた証だと思うんですよね。目尻のシワや顔のシミに、その人の物語が刻み込まれていると思うから、そこを無理に作り込むことはしたくないんですよね。だからあくまでも自然体で。あと、モデルの方と事前にお会いした時に、その人の雰囲気に合わせてお花を選んで、そのお花と一緒に撮影します。季節的なものなので無理な部分もあるけど、できるだけその人の雰囲気にあった花をチョイスするようにしてますね」。

最初は、どの参加者の方もガチガチに緊張しているそうだが、途中で一旦メイクを入れることでスイッチが入り、一気に表情が変わると智美さん。「写真を撮る時『嘘はつかない』と言うのが私の信条。だから、撮影中に可愛いってすごく言っちゃうんですけど、嘘をつかないって決めてるから全部本心です。だけど、撮影してる時はその人が世界一綺麗だと思うし、本当に綺麗なんですよね。女性の強さやかっこよさと儚さを表現できたらって思っています」。

YOUR STYLE PHOTOのメイク風景。
細かくバランスを見ながらメイクをしてくれています。


撮影場所は、店舗の一角であったり自宅であったり公民館だったり…。「当初はスタジオで撮りたいと思ったんですけど、スタジオを借りるとお金がかかるし、どうしようかな…と悩んだけど、背景紙を買って、その中で撮影できることをしようと。〝できないことを諦めると、できることが見えてくる〟という私が今バイブルにしている言葉があるんですけど、できないことを手放すと、そこからできることが見えきたんです。だから、今の撮影スタイルが生まれた。背景紙に使う壁紙は一辺が92センチしかないけど、その中で最大限の魅力を引き出せるように工夫しています。ライトも使わず、あえて自然光のみ。自然光が、女子を一番綺麗に見せてくれる気がするんです」。

この写真たちが、まさか92センチの中で生まれていたなんて、聞いて驚いた。どんな場所でもスタジオに早変わりし、撮影できるのだから…。その独自の撮影方法は、これから智美さんのスタイルになり、個性になり、武器になっていくはずだ。

YOUR STYLE PHOTOの1番目に参加して下さった方。
笑顔が本当に可愛い方ですが、この表情に度肝抜かされました!

ソーシャルディスタンスのコロナ渦だからこそ
みんなで作る意味があった

今回のこの企画には、智美さんのいろんな想いが詰まっている。

「モデルさんや、メイクさん、モデルのご家族の方もみんな一緒にこの撮影に臨んで、一緒に作っているという感じがすごくするんです。コロナ渦で距離を保つ生活様式が当たり前になってきたけど、だからこそ一つのものをみんなで作り上げていることがとても嬉しかったです。参加者の方が〝引っ込んでいた自分にちょっと自信がついて頑張ろうって思った〟とか〝前向きになれた〟と言ってくれたのがすごく嬉しくて。今の時代だからこそ、この企画をやってよかったなって思います。何より私自身がいろんな方に出会えることが糧になっています。コミュ障を克服するために不特定多数の中に入っていこうと頑張っていた私がいるけど、今はこうして、カメラを通じて出会えた人と正面向いて接する方が、私には向いているなって」。

今後、チャレンジしたいペットの撮影。
シンプルだからその子の可愛さがより伝わると思っています。


これからチャレンジしてみたいこと、目標を聞いてみた。

「名刺にはフォトグラファーって書いているんですけど、写真家っていいなって思ったんです。相手が求めているものを形にするのがフォトグラファーで、自分を表現できるのが写真家な気がします。私は好きなものを撮り続けられる写真家になりたい。我が家には犬が2匹いて、去年亡くなったんですけどモモンガも飼ってたんです。これからも、大分のオトナ女子を撮り続けたいし、ペットの写真も撮りたい。こうやって活動できたり、色んな事にチャレンジしてみたいと思えるのは、「やりたい事をやってほしい」と言ってくれる優しい夫と息子、そして、我が家の小さな家族たちの支えがあったからでした。これからもまわりの人に感謝しながら、被写体になって下さった方も写真を見て下さった方も元気になれる。そんな写真を私らしく撮っていきたいです。

息子が撮影してくれたモモンガとの写真。
この何日か後に亡くなったんですけど、一緒に撮ってもらった写真は一生の宝物です。

この記事のライター:安達博子

緊張するからと、事前に今までの自分の人生を振り返ったメモを見ながら、丁寧に、時に涙しながら質問に応えてくれた智美さん。彼女が撮る女性たちが、大人の美しさを醸し出している一方で無垢な少女に見えるのは、写真家である智美さんがとてもピュアだからなんだと思う。メロンソーダが好きなこと、モモンガを飼いたいと切望したこと、未だに鉛筆を使って文字を書いているとこ…。どれもが本当に可愛らしくて、愛おしくて、目の中に入れても痛くないって、つい思っちゃいました(笑) いつか大分のオーバー30の大人女子図鑑を作りたいですねぇ~。大分にはこんなに素敵な大人の女性がいるよって、世に知らしめたい! そして、ママのままプロジェクトと一緒に、これから面白いことやっていきましょう! なんか企画考えよ! あー、楽しみでしかない。

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