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2022.01.11

研究員から主婦。そして子育て支援員へ…
予想できない人生は、女性ならではの面白味

祖父江美幸さん[子育て支援員]

今回のママ:
祖父江(そぶえ)美幸さん[子育て支援員]
42歳・熊本県出身・臼杵市在住
(中学2年生・小学校5年生・3年生の二男一女の母)

子育て真っ最中のママたちにとって、心の拠り所にもなっている〝子育て支援施設“。親子の交流の場として、ママ同士のコミュニケーションの場として、子育ての相談の場として、また、一時預かりを利用すれば自分の時間を確保することもできる、子育て世代にとってなくてはならない存在だ。臼杵市内にある〝地域子育て支援拠点・よいこのへや”は、シルバー人材センターが運営している全国的にも珍しい施設で、活動するスタッフは地元のおばあちゃんたち。小さなお子さん、ママやパパ、そして母親の大先輩でもあり経験豊富なおばあちゃんが、世代を超えて交流できるアットホームな施設だ。ここで子育て支援員として働くのが、今回ご紹介する祖父江美幸さん。若いママとシルバー世代のスタッフとを繋ぐ、架け橋のような役割を担っている。

「察してほしい」「わかってほしい」のイライラを
楽しく変換して乗り越えました

久々に臼杵市を訪れた。風情ある城下町を眺め「本当に素敵な街だなぁ」としみじみ感じる。その街並みの一角にあるのが〝地域子育て支援拠点・よいこのへや“。少し道に迷ってしまい車でウロウロしていると、手を振る笑顔の女性が出迎えてくれた。彼女が今日の主役・祖父江美幸さん。この施設で子育て支援員として働いている。

施設内におじゃますると、小さな子どもと若いパパやママ、スタッフとして働くおばあちゃんたちが一緒に遊んでいた。その光景に心がほっこりと温かくなった。

「取材とか苦手で…。うまく説明できないかもと思ったので、まとめてみました」。「私のこと」と書かれた二枚の紙には、これまでの生い立ちや祖父江さんの想いがぎっしり綴られていた。「この資料だけで原稿書けるよね?」と思えるほど、事細かにわかりやすくまとめられていた。書かれている文章を読むにつけ、きっと聡明な女性なんだろうな…というのが祖父江さんの第一印象。だからといって相手を緊張させることのないナチュラルで柔らかな物腰に、絶妙なバランス感覚の持ち主だと一瞬で察した。



熊本生まれの熊本育ち。地元の高校を卒業した後、山口大学農学部へ進み、遺伝子組み換えなどの化学分野や農業実習などを経験しながら農学の分野について学んだ。一方で、弓道部で武道を極め、なんと高校団体全国2位、大学個人全国10位という輝かしい成績をおさめた。

大学卒業後は地元に戻り、熊本の製薬会社に就職。製薬・品質管理・厚生労働省への医薬品製造申請などを担当する部署に配属されたが、残業が月100時間を超えることもある程の激務だった。5年間勤務したのち、結婚を機に退職。大学時代に知り合ったご主人と27歳で結婚し臼杵市へ。翌年、第1子を出産し、以降の9年間は専業主婦として子育てに専念した。

「妊娠中はつわりもひどく、臼杵には誰一人友達がいなかったので、家に篭ってひたすらスラムダンクなどの漫画を読み漁ってました(笑)。熊本人感覚が抜けなくて臼杵にもなかなか馴染めず、里帰り出産をした後もよく帰省してました。子どもが8ヶ月くらいの時から子育て支援施設に通うようになり、そこで友達ができて、母親サークルなども楽しめるようになりました」。

第2子を出産し、長男も幼稚園に入園。幼稚園では役員活動にも積極的に参加し、出身や年齢、職業が違ういろんなママたちと出会い、縁が広がっていった。「中学で吹奏楽部に入っていたので、フルートを持ってたんです。ピアノを弾くママ友と出会い音楽仲間ができて、小学校の音楽の授業や地域のイベントで演奏するようになりました。その頃からだんだんと、私の中で臼杵に根をはる感覚が生まれてきました」。



その後、念願の女児を出産。しかし、ご主人は、平日は仕事で帰りが遅い上、休日も地域のボランティア活動などに参加したりと、家を空けることが多かった。その状況に徐々に苛立ちを募らせ、次第に家庭内に不穏な空気が…。

「弓道をやってたので、武道の基本の〝見取り稽古“が染み付いてて、主人に察してほしいという気持ちがすごくあって…。『なんで気づいてくれないんだろう』『どうせ言ってもわからないだろう』と思う反面、多忙な主人にそれを求めるのも酷だなと思ったり。自分が仕事をしてない負い目もあったりで、どんどんイライラが積み重なって、子どもに八つ当たりして自己嫌悪の日々でした。私、子育てに向いてないんだって本気で思ってました」。

だからこそ、今、同じことで悩んでいるママたちに経験者としてアドバイスできると祖父江さん。「男の人に察してほしいというのは無理(笑)。動いてくれるような言葉かけをすることが大事なんですよね。うちもよくあったけど、どこかに出かける前って女の人ってお化粧したり家事を済ませたり、子ども3人から同時にママー!って言われたり、やること山積みじゃないですか。なのに車に乗って『まだー!?』みたいな。全部自分1人で済ませようとするからイライラしてたけど、それを例えばじゃんけんで手伝ってもらうことを決めて分担するとか、楽しく変換すれば良かったんだって気づいたんです。家族って、〝子育てというミッションを持ったチーム“。家庭の空気が良くなるように、お互いに協力してどう動くか?が大事。そのために、声かけを少し工夫するだけで全然違ってくるんですよね。それをお互いに実践しようと努力している今は、とても良い関係が築けていると思ってます」。

祖父江美幸さん[子育て支援員]

ママたち、そして働く人たちにとって
大切な居場所を守っていきたい

9年間の専業主婦生活を経て、社会復帰を考えるきっかけになったのは高校の同窓会だった。医者や研究者、有名起業家になって活躍する同級生を見て「私、この20年間何やってたんだろう…」と感じた。

「今の私の軸は子どもたち。だから〝やりたい仕事“とか〝やりがいのある仕事”とか言ってられないなって。通勤距離が近いとか、土日がお休みとか、仕事を選ぶ判断基準も変化している現実に気づいたんです。研究職に戻るのはもう無理だし、大学まで行かせてくれたのになんだか親に申し訳なくて・・・。今の私に一体何ができるんだろう・・・ってすごくモヤモヤしてました」。

そんな時、末子の幼稚園入園のタイミングで、今の仕事でもある子育て支援員の話が持ち上がった。「シルバー人材センターが運営するので、私以外のスタッフはみんな祖父母世代の高齢者の方たち。平均年齢は71歳で、最高齢の方は80歳なんです。おばあちゃんと利用者の若いママの間には年齢差があり過ぎて、ママたちのニーズを現場に落とし込める人がいなかったんです。3人の子育ての経験も生かせるし、年齢的にも利用者のママたちより少し年上だから、そこのつなぎ役をしたいなって思ったんです。私が常にここにいることで、より安心して利用しやすくなったと言ってもらえています。ここで働き始めてもうすぐ6年。今は、19名のスタッフと共に楽しい時間を過ごさせてもらっています。私自身、スタッフから学ぶこともとても多いんですよ~」。

とは言え、一緒に仕事する仲間は、祖父江さんよりも年上の人生の大先輩。色々と苦労する面もあるのでは?

「私が入った頃は、〝ただ子守りをする場所”という雰囲気でした。今は、ママと子ども両方を支える大切な仕事だという意識を、スタッフみんなで共有できるように、一緒に研修に参加したり、より丁寧なコミュニケーションを取るように心がけています。『〇〇〇できるようになったね~!と、お子さんの小さな成長に目を向けた声かけをすると、ママも嬉しいし、認めてもらえたという感覚になるんですよ~』と、共に成長を喜ぶ関わりの大切さを伝え続けるうちに、スタッフの意識がどんどん変わってきました。きっとやりがいも感じてくださってるんじゃないかな。『主人と二人で家にいるより、ここで仕事してる方が楽しい!』なんて方も(笑)。ママとお子さん、そして働くおばあちゃんたちにとって大切な居場所だと思っているので、これからも守り続けていきたいです。」

祖父江美幸さん[子育て支援員]

やるか、やらないかの選択肢があったら
私はとりあえず、やってみる!

支援員の仕事にとどまらず、常に高みを目指している祖父江さん。より深い知識や経験を積むため、令和2年度の県の子育て応援活動リーダー養成研修に参加したり、おおいた子ども・子育て応援県民会議委員、臼杵市子ども子育て会議委員としても様々な会議に出席している。

「大学・保育・児童クラブの関係者など、普段関わる機会のない方々の考えを聞けて、本当に勉強になっています。様々な分野や地域の課題などを知ることができるし、自分の目指す方向性を確認する機会にも。やっぱり人との繋がりや出会いは大事だと思うし、これからも大切にしていきたいですね」。



そんな中でも多くの迷いもあると祖父江さん。「今の仕事は、困っている人の課題にも目を向ける仕事なので、うまくいかなかったり、こちらの思いが伝わらなかったりすることも多々あります。その時、あまり深く考え込み過ぎず、忘れやすい脳だから(笑)今の仕事を続けていられるのかもしれません。常に迷える子羊状態だけど、これからは〝私がやる強い理由〟をもっと掘り下げて考えていかないと、より質の高い子育て支援サービスはできないし、続けられないなって思っています」。

祖父江さんが、大切にしている子育てにおいての軸は「育児=育自。子育て=親育ち」。いつも自分にそう言い聞かせながら子どもと向き合ってきた。



「子どもを産み育てることで、人との縁が広がり人生が豊かになりました。母として、常にこうありたい、変わりたいと向上心を持つことができることも幸せだな♡と感じています。子どもの自立を一番に考える一人の母親として、環境を整え、どんな状況でも幸せになれる力を持った子を育てていきたい。ほとんどの親はそう思ってるんじゃないかな・・・?そのためには、乳幼児期のお子さんを育てている〝今”から、子育てという修行の日々(笑)に、とことん向き合い、親としての根っこを張りながら、子育てを楽しむ力を身につけていかないといけないと思うんです。一緒に楽しむ仲間がいたら更に力が湧くし、何倍も魅力的な日々になる。我が家にもそんな仲間がいるんですけど、家族ぐるみで育ち合えると最高ですね。乳幼児期は、親もコミュニケーションの幅を広げる時期。私の場合過ぎちゃいましたけど、だからこそ、この時期がとても大事だと断言します。」



取材の終わり際に、一枚の写真を見せてくれた。製薬会社で研究員として働いていた頃の白衣姿の祖父江さんが写っていた。



以前はこういう仕事をしていたけど、結婚をきっかけに仕事を辞めて、出産をきっかけに今の仕事を始めて…。全然予想もしてなかった人生だけど、これって女性ならではの面白味だったりするのかなって思うんですよね。でもそれを自分で掴みに行くのか?行かないかは、その人の考え方次第。やるかやらないかの選択があったら、私はとりあえずやってみる。難しいと思うことなら、どこまでやれるか?どうやったらやれるか?と考え続けて、とりあえず一歩踏み出してみます。いつも締め切りややらないといけないことに追われてるけど、一つ一つクリアして、経験値を積み上げていけば、いつかまた面白い何かに出会えるはず。そうやって自分の人生を更新していけたら、きっと後悔のない人生を送れると思うんですよね。こんな風に、もがきながらもチャレンジし続ける母の姿を、子どもたちに見ていてもらいたい。失敗したとしても〝自分にとってプラスになる何か”を学び取る力を身につけて欲しい。だったらまず、大人が行動するのみ。ボーっと生きてられませんよね(笑)!それが私にとって一番の原動力かな。」

祖父江美幸さん[子育て支援員]

よいこのへや
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この記事のライター:安達博子

武道を極めた女性は、心が侍のようでかっこいい!!その辺にいる男よりもかっこいいかもしれない(笑)。日本刀で竹をスパーンと割ってしまうような清々しい性格(自分は自分、他人は他人。結果が出ないなら真の努力とは言えない。やるかやらないかの選択肢があったら、やってみる。以上、祖父江語録)。その一方で、小さな子どもからおばあちゃんまでを虜にするおおらかで優しい笑顔は、柳のようなしなやかさを持ち合わせた、バランス感覚に富んだ稀有な存在の女性だと感じました。これまでに取材した女性の中で、上司にしたいナンバーワンかも。愛着形成が培われる乳幼児期の子どもとの向き合い方で、子育てが楽しかったと思える根っこが育つという話。今、子育てと仕事とで悩んでいるママたちにぜひ聞いてほしい。二度と戻れないあの数年間は、本当に一瞬で過ぎ去ります。〝人生を豊かにしてくれる子どもたちの時間を、後悔しないように大切にしたいと〟と、祖父江さんとお話しして、改めて感じました。

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