2024.03.26
今回のママ:
中嶋佳奈恵さん[建設業]
38歳・中津市出身・中津市在住(小学校2年生の一女の母)
男性社会のイメージが強い建設業界だが、近年、女性が活躍する場も増えてきた。今回取材させていただいた中嶋佳奈恵さんは、祖父の代から約65年間続く中津市内の建設会社「M・ZEC(エムゼック)」の後継者。現在は取締役、総務部部長として、現場に出ながらお父様と一緒に会社を切り盛りしている。様々な職を経験し得た知識を活かしながら、長年続く会社に新しい風を吹かせ、今は新規事業に向けて奔走中だ。子育てをしながら会社を守るという重責を抱えながらも、柔らかで軽やかな思考のままに突き進んでいる。
久々の遠方取材。「大好きなあそこのラーメン食べて帰りたいなぁ…」と想像しながら(実際は行けなかったけど)ワクワクしながらドライブ気分で中津市へ車を走らせた。今回取材におじゃましたのは、中津市にある「M・ZEC」。一般建築から、工場や店舗の新築・リフォーム・改修、公共工事などを行なっている建設会社だ。おじいさまの代から続き、佳奈恵さんは3代目の後継者として現場に立っている。併設するモデルルームに通され、そこに「こんにちは!」と現れたのが中嶋佳奈恵さん。透明感のある洗練された雰囲気の女性で、きれいな目がとても印象的だった。
その後、28歳で同職場で働いていたご主人と結婚。ご主人の転勤を機に退職し、一緒に東京へ。その後、知人からの紹介で富山県に本社がある「能作」という鋳物のメーカーに再就職した。早速、新店舗の店長を任され、宿泊施設立ち上げの際の経験を活かし、全国の新店舗の立ち上げや統括にも関わった。「元々は仏具を製造販売していた会社なんですが、町工場の職人さんの技を広めたいと、現代に合ったデザイン性の高い商品を開発し販売していました。日本各地に販路を広げたいと新店舗出店の計画が進み、エリアマネージャのような仕事も任せられました」。
産休を取得しながら30歳で出産。出産後、福岡の新店舗の立ち上げに携わることになり、それを機に九州へ戻ることに。ご主人は東京、佳奈恵さんと娘さんは中津と、それぞれの拠点で別々の生活を送ることになった。「主人は24時間勤務の仕事で、夜勤があると子どもを預けることができない…。子どもができてもずっと働きたいと思っていたので、このまま東京で生活するのは難しいと、勤務して3年目で中津に帰ってきました。週2日ほど中津から福岡の店舗へ電車で通勤しました。在宅勤務もあり、両親や親族も近くでサポートしてくれたので、子育てをしながら今こうして働けていることに感謝しています」。福岡と中津を往来する生活が1年ほど続いたが、いつの日からか「会社を継ごう」という気持ちが、佳奈恵さんの中に芽生えてきていた。
業種は違えど「星野リゾート」「能作」という企業で、新しくできる宿や店舗の立ち上げに関わってきた佳奈恵さん。偶然にも、ともに同族経営企業だった。「両社とも規模を拡大している会社ですが、ルールなどにガチガチに固められることなく、社長の想いが社員にも伝わり、働いている方の人柄を尊重している会社でした。新しいこともチャレンジさせてくれる懐の大きさもあり、ファミリー企業の良さを実感していたんです。新規事業へのスピード感は、こういうファミリー企業ならではの面白さ。そう考えると我が社もたくさんの可能性を秘めているファミリー企業だなって思ったんです」。これまでサービス業界で培った経験が、建設業界でも活かせるかもしれない…。そう確信した佳奈恵さんは仕事を辞め、家業を継ぐことを決意した。
建設会社で働き始めて今年で8年目。「責任感を持って仕事はしていましたが、正直なところそこまで深くは考えてなくて…。本気でやろう!と覚悟できたのはここ2年ぐらいです。全く知らない世界に足を踏み入れたので、二級建築施工管理技士など、必要な資格取得のために猛勉強して苦労もしました。男性主体の業界でロールモデルになる先輩経営者もいないし、女性がこの業界でどうやって仕事をしていけばいいのか…という不安もありました」。そんな時、大分県で働く建設業界の女性たちの会に参加し、たくさんの女性たちがこの業界にいることを知った。「皆さんが楽しそうに働いているのを見て、自分自身が楽しく働ける会社にしていこう!と思ったんです。それをきっかけにマインドが変わっていきました。この業界って現場主体のイメージがあるんですが、現場の業務を減らすための段取りなどを行う、細やかなデスクワークが必要だったりします。それは在宅ワークでも可能なので、女性に向いている仕事だなと感じています。昨年、広報専属の女性を採用したのですが、会社の看板を変えたり、マスコットキャラクターを作りそれでグッズを製作したり、これまでにない女性のアイデアが盛り込まれ、社内に新しい風を吹かせてくれていると感じますね」。建設業界での女性の役割を改めて実感していることが多いと、佳奈恵さんは話してくれた。
「地元に戻ってきたのは中津が好きだから。地元にどんな貢献ができるんだろう…と考えた時に思いついたのは、宿や観光に関わることでした。やっぱりそういう仕事が好きなんだと、再認識しました」。そんな想いを胸に、新規事業として宿泊施設の建設を提案した。その案にゴーサインが出て、現在、中津駅近くに宿泊施設を建設中だ。星野リゾート勤務時代の先輩を頼り、アドバイスをもらったり設計士を繋いでもらった。「ホテルで働きたい」という幼い頃からの夢を実現し、これまでの経験が全て注ぎ込まれる形で、宿泊施設の建設と経営に関わることとなった。
ホテルの建設、通常の営業の仕事、様々な会合にも顔を出し毎日やることが山積みだ。そんな中、一人娘さんとの時間をどうやって確保しているのだろうか。「朝6時に起床し、支度をして娘と一緒に家を出て8時前には出社。17時には会社を出るという毎日です。でも実際にはなかなか定時というわけにはいかず、夜の出事があったり出張があったり…。実際、子育てと仕事のバランスが取れているかと言われると、子どもが寂しい思いをしているかもしれないし、正直自信はないなと思います。夜の会合や出張の際は、両親や妹に子どもをお願いしてサポートしてもらっています。親族が近くにいるってやっぱり心強い。そこの存在がなかったら、また働き方は違っていたのかなと思いますね」。
日頃、なかなかゆっくり時間が取れないので、休日には娘さんと二人で近場のプチ旅行に出かけ、勉強も兼ね旅館やホテルに宿泊したりするそう。そんな時間もいい息抜きになると佳奈恵さん。会社のすぐ側にある保育園で1歳前から娘さんを預け仕事をしていた。娘さんが小学校に上がると、週末の仕事の際はスタッフが事務所で面倒を見てくれた。「みんなの支えがあって今がある。本当にありがたいです。若い女性社員もいるので、彼女たちのためにも結婚・出産を経ても働きやすい環境を整えていきたいです」。
株式会社M・ZEC
https://www.m-zec.com/
この記事のライター:安達博子
スマートな話し方や、的確な表現…。話しているだけで、佳奈恵さんは頭のキレる女性だと確信。でも、どんどん話していくうちに、違う一面も垣間見れた。学生時代、実は容姿にコンプレックスがあり自信がなかったこと(こんな美人さんなのに)、実は計画書作成など緻密な仕事が苦手なこと、ギリギリまで仕事をせずお尻に火がついてからの集中力がすごいことなどなど(笑)。本当に共感することばかり。だけど、上に立つ人って、そうであって欲しいと常々思っているのです。完璧でなくていい、ちょっと抜けてるくらい。でも「みんなで一緒に作り上げよう!」という強い想いと熱量を持って、一体感が生み出せる人。佳奈恵さんにはそんな魅力が詰まっていて、彼女と一緒に働く人は幸せだなと思いました。大変だと思いますが、まずはホテル開業に向けて、楽しみながら笑顔で突き進んでください! お酒好きだということも聞いたので(笑)開業を祝って一緒に飲める日を楽しみにしています!