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2024.11.05

どんどん周りを頼っていい。
それが子どものためでもあり、自分のためになるから…。

岸本由紀子さん [絵本販売店店主]

今回のママ:
岸本由紀子さん [絵本販売店店主]
56歳・大分市出身・大分市在住(26歳・24歳の姉妹の母)

大分市中央町にある「えほん屋かのこ」。ご主人が経営するシェアサロンの一角に、岸本さんがセレクトした絵本が並ぶ可愛らしい空間がある。約30年間書店で働き、大好きな本に囲まれた日々を送っていた岸本さんは、8年前に絵本のお店をオープンした。子育てをしながら働く女性にとって、社会はまだまだ手を差し伸べてくれなかった時代に、多くの葛藤や苦労を経験しながら仕事を続けた。今回は、久々に人生の先輩ママの登場。「ひとりで頑張らなくていいんだよ」という優しいメッセージに、安心感を覚える女性はきっと多いだろう。

バイトから正社員へ
書店の仕事との出会い

あるお仕事で、岸本さんに話を聞く機会があった。絵本特集の取材だったので本の話題が中心だったが、話の合間に岸本さんご自身の話も少し伺うことができた。長年書店で働いていたこと、ご家族で農業も兼業していること、娘さんたちのこと、猫と韓流ドラマが好きなこと…。話しを聞いているうちに、自然体でとても素敵な女性だなぁ…という思いが膨らんだ。もっと話しを聞きたいと、ママスタイルでの取材を改めて依頼したら「私でよければ」と快諾してくれた。



訪れたのは岸本さんのお店「えほん屋かのこ」。中央町のビルの3階にあり、美容師のご主人が経営するシェアサロンの一角にお店がある。秘密基地のような可愛らしい空間で、腰を屈めて入り口をくぐり抜けると、まるで子ども時代に戻ったかのようだ。 



転勤族のお父様の都合で九州を転々としながら、小学校3年生で再び大分へ。市内の小・中学校を経て、高校は大分県立芸術緑丘高等学校のデザイン科へ。高校卒業後、印刷会社に就職し、広告の版下のデザイン・製作の仕事に就いた。しかし、職場の環境に馴染めず10ヶ月で退社。バイト先を探していた際、大分市内にある書店のアルバイトの募集を見つけた。

「そこで1年半バイトとして勤めたんですが、正社員採用の話をいただき、社員として働くことになりました。自分が長い間、書店に務めることになるとは思ってもなかったですね」。トータルで約30年間、書店の仕事に携わることとなった。「働いていたお店が大手の書店と合併し、新しくできる大型商業施設の中に出店することになり、オープニングスタッフとしても関わりました。それからもいろんなお店を転々として、店長として書店を切り盛りさせてもらいました」。

「毎日が本当に楽しくて」と岸本さん。職場では先輩や上司にも恵まれ、イキイキと働く岸本さんの姿を見て「この仕事は天職だったのかもね」と、生真面目だったお父様は言ってくれたそうだ。

書店員として多忙な毎日を過ごしていた中、足しげく通っていた居酒屋でバイトをしていた9歳下のご主人と出会い、29歳の時に結婚。「出会った当時、主人はまだ学生でした。結婚後、美容師を目指し働きながら通信で勉強をしていました。インターンでお給料も少なかったので、結婚した当時はすごく貧乏でしたね。私が書店の社員だったから、なんとかやっていけた感じでした。1年後に長女が産まれた時もお金がなくて、オムツを近くに住む両親に買ってきてもらったり、本当に周りに支えられていましたね」。2年後、33歳の時には、第二子を出産した。

岸本由紀子さん [絵本販売店店主]

仕事の途中に授乳することも…
呆れられるほどの仕事人間

「本屋さんって力仕事なので、当時は産休を取得して、仕事に復帰する人はいなかったんです。子どもができたら退職するのが当たり前の流れでした。でも、私は家計を支えないといけないので辞めるわけにいかなかった。産休育休の制度はあったんですけど、前例がなかったので相談する相手もいなくて。人事と話し合いながら、会社で初めての産休を取得しました。『本当に戻ってくるの?』って何度も聞かれましたけどね…。長女の時は、産後3ヶ月で復帰しました。主人は、お店を辞め転々としてた時期だったので、代わりに育児を担ってくれました。授乳の時間になったら子どもをお店に連れてきて、事務所で授乳して、その後仕事に戻るみたいな…。赤ちゃんの首が座らないと託児所にも預けられないので、仕事に復帰して3ヶ月はそんな毎日でした」。

また、第二子を出産する際は、大変な経験をしたそう。「胎盤と子宮が癒着していて、赤ちゃんを産んだ後大きな病院に緊急搬送され子宮を摘出する手術をしました。出血量も多くて、意識もなくなり生死をさまよいました。娘は産院、私は病院だったので、母乳を絞って持って行ってもらっていました。そんな中、手術直後に産休の件で会社から電話があって、その時はさすがに『今じゃなくてもいいでしょ!』って頭にきましたね。その後、産後4ヶ月で復帰しました」。



企業としても、当事者としても、制度を利用するには未熟だった。お互いが探り探りで進んでいくしかなかった、と当時を振り返った。

「下の子はよく寝る子だったんですけど、長女が赤ちゃん返りして夜泣きがひどくて。半年間ぐらいは寝ずに出勤ということも多々ありました。精神的にも参って、一人で夜中に『なんで寝てくれないの?』って泣いてましたね。あの時は本当にしんどかった。でも、だからこそ、仕事が気分転換になってた部分も大きいです。子どもにべったり…というのは、多分私の性に合わないんだと思います。仕事のことばかり考えていて、子どもの保育園のお迎えを忘れることもありました。今考えれば、呆れられるくらい仕事人間でしたね」。
 
次女を出産後、新しい店舗へ異動になった。小学1年生の夏休みを迎えるまで、1時間早く退勤できる〝チャイルドケアタイム〟という制度が利用できた。しかし、その制度を利用した人はもちろん皆無で、制度自体の理解も浅く、上司からは『チャイルドケアタイムの意味がわからない』と言われたこともあった。「『この制度が小学校1年生の夏休みまでしか利用できないという意味がわからない! 小学1年生は親にとっても子どもにとっても一番大変で大事な時期だから、もう少し延期してほしい』と会社の組合に直談判したこともあります。でも法律上はそこが最低限なので、それ以上は難しい…という返答でした」。

制度の利用期間終了後はフルタイム勤務になり、用事がある際は早退するしかなかった。シフトや勤務時間を自分で選択することはできなかった。それに加え、遅番勤務を強いられた。「遅番の日は帰りが遅くなるので、仕事前に夕飯を仕込み出勤しました。娘たちも小学生だったので温めるだけで食べられるものを作り、主人がその時間に合わせて帰宅してくれていましたね。まさに〝母ちゃん元気で留守がいい〟の家族でした」。

岸本由紀子さん [絵本販売店店主]

やりたいこと山積みの主人の夢を
一緒に叶えていくのが夢

育児と家庭、仕事の両立を模索しながら進んできた日々。ご主人や家族の理解あってからこその毎日だったと振り返った。その後、岸本さんに続き、妊娠や出産を経ても仕事を続けたいという後輩社員も増えてきた。その際には、自分の経験から様々なアドバイスを送った。「とにかく産休が取れる期間は、自分のためにフルで取得した方がいいよと。保育園を選ぶ時も、子どものためというよりも自分にとって負担の少ないところを選んだ方がいいとアドバイスしました。結局負担がかかってくると、仕事以外でさらにストレスを抱えることになるし継続するのが難しくなる。自分のライフスタイルに合った保育園を選ぶのがいいよって伝えていましたね」。岸本さんのアドバイスを参考に、その後輩社員は1年間の産休を取得し復帰したそうだ。
 
その後、職場での人間関係の悩みもあり、それから先の人生を考えた時、大好きだった書店の仕事を辞めることを決意。「これが私のタイミングなのかもしれない」と、すぐに辞表を提出した。退職して1年間は日本各地の絵本屋さんを巡り、49歳の時に「えほん屋かのこ」をオープンした。「お子さんのため、自分のため、誰かに贈るために絵本を探しに来て、相談を受け選んだ一冊を喜んでもらった瞬間、やっててよかったって思います。絵本との出会いのお手伝いができた時、『私はずっとこんな仕事がしたかったんだ』って改めて感じましたね。書店ではできなかった、お客さんとマンツーマンで接する今の仕事がすごく楽しいです」。



今後の夢を聞いてみた。「〝現状維持〟という言葉が好きなんです。今が楽しい!ということが、私にとって大事なこと。だから未来のことはあまり考えたことなくて…。夫は、私とは真逆の性格で、5年後、10年後の人生設計をちゃんとしないとダメな人なんです。主人はまだまだやりたいことがたくさんあるみたいなので、その実現のためのお手伝いができたらいいなって思ってます」。美容室を経営しながら、ブロッコリーやネギを栽培する農業にも従事しているご主人。やりたいことが湯水のように湧いてくるそうだ。岸本さん自身も、週に数日、畑仕事を手伝っている。



結婚・出産を経ても仕事を続ける女性が増えた昨今。様々な制度やサポート体制も整い、昔よりも恵まれた時代になった。しかし、様々な葛藤と戦い日々奮闘する女性の姿は、昔も今も変わらない。ひとりの人間を育てるという一大事に女性の力は不可欠で、並大抵ではない努力が必要なのは今もなお変わりはない。「ひとりで抱え込まないで、周りや家族、近所の人でもいい。周りをどんどん頼っていいと思います。それが子どものためであり、自分のためになる。私はオムツ外しも、箸の持ち方も、きちんと教えた記憶がないんです。包丁の持ち方も夫が教えてますからね。ありがたいことに、そうやっても子どもは成長してくれ、元気に育ってくれました。少しでも肩の荷を軽くして、今の時間を楽しんでほしいですね」と、働く女性たちへの暖かい言葉を添えてくれた。

ゴールや正解は、多分ない。でも、誰もが当たり前に仕事を続けられる世界線には近づいてきたと感じる。勇気を持って、未踏の地に一歩踏み出してくれた先輩たちがその土台を築いてくれたからこそ、今がある。

岸本由紀子さん [絵本販売店店主]

この記事のライター:安達博子

自分よりも年下の女性を取材することが多いので、久々に先輩ママの話を聞くことができ「これまでも、この先も、私もままでいいんだ」と思わせてくれた取材となりました。昔話をすると、自分が年を取ったみたいで(取ってるけど笑)あまり好きではないけれど、私たちがバリバリ働いていた時は育休・産休を取得する人はほぼ皆無で、制度のことも熟知していなかったという記憶があります。「結婚=仕事を辞める」が当たり前だった時代。そんな逆境の中、仕事を続けた岸本さん。ご主人やご家族の理解や協力があったにしても、本当に大変だったと思います。人生の先輩たちが、今の礎を築いてくれたんだと実感しました。まるでホットミルクのようなあったか~い岸本さんに癒されたくて、えほん屋かのこを訪れる人もきっと多いでしょう。畑仕事もあるので、会いたい人は一度連絡を入れた方が確実ですよ。ぜひ一度、お時間ある時にお店をのぞいて見てください。今回も素敵なご縁に感謝です。

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