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2022.06.07

子どもの声に耳を傾け、寄り添い
「起立性調節障害」に正しい理解を

「起立性調節障害」に正しい理解を

なかがわ柳通りクリニック院長 中川健士さん

子どもが朝なかなか起きられない、だるさやめまい、頭痛でつらそう、そんな悩みを抱える親御さんも多いのでは。朝起きられない理由は、甘えや怠け心ではなく、「起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)」なのかもしれません。「起立性調節障害」とは、自律神経系の異常で循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患です。今回は、なかがわ柳通りクリニック院長の中川健士先生に、症状や原因、対策について詳しくお聞きしました。子どもたちの悩みに寄り添うためにも、起立性調節障害の理解を深めましょう。

「朝起きられない」「疲れやすい」
その症状、「起立性調節障害」かも!

―起立性調節障害について教えてください。

起立性調節障害は、思春期の子どもに発症することが多く、朝が起きられない、立ちくらみ、疲れやすい、長時間立っていられないといった症状が見られます。また、自分の嫌いなことを目の前にすると気分が悪くなる、少し動いただけで心臓がドキドキするという症状もあるようです。すべての症状を疾患として扱う必要はありませんが、生活に支障が出ている場合は、医師の診察を受けた方が良いでしょう。小学5〜6年生から症状が出る子もいますが、中学生で発症する子がほとんどで、男性よりも少し女性が多いようです。最近はSNSやゲームをする時間が増えていることから、睡眠障害を合併している子もいますね。

―朝起きられない、だるさを感じるといった単純な問題ではないのですね。

そうですね。精神的な病気だと勘違いされることが多いのですが、自律神経の異常が原因で起こる血圧の病気です。ただ、うつ病で自律神経の症状が出る人も多くいますので、精神疾患とどう区別するかという問題が出てきます。お腹の不調が現れる場合もありますが、この症状の場合、学校に行こうとすると下痢をしたり吐き気を感じたりする「過敏性腸症候群」という疾患もありますので、その両方で悩んでいる子どももいます。また、朝起きられないことを気に病み、精神疾患を発症することもあります。起立性調節障害の症状が見られたら、メンタルケアにも注力しなければいけません。何より大切なのは本人からしっかりと症状や悩みをヒアリングすることです。



―何が原因で発症するのでしょうか。

起立性調節障害は血圧の調節障害です。自律神経には、交感神経と副交感神経の2つがあり、起きているときは交感神経が、寝ているときは副交感神経が優位に働いています。大人になれば、目が覚めた段階で副交感神経と交感神経が即時にチェンジし、血圧を調節することができます。しかし、子どもの場合は自律神経が未発達なので、副交感神経と交感神経の切り替えが遅く、朝起きた時や急に立ち上がった時などに低血圧の症状が起こります。特に、起立性調節障害の人は、30分から1時間ほど経っても血圧が上昇せず、起き上がることができないのです。

―大人で発症する方もいるのでしょうか。

急なストレスなどが原因で、40代になって急に起立性調節障害を発症する人もまれにいます。大人だから絶対ならないというわけではありません。

認知度の低い病気だからこそ、
症状と原因を正しく理解しよう。

―起立性調節障害の症状で受診する方は増えていますか?

親子で相談に来る患者さんが増えています。当院は、心療内科も展開しているので相談に来やすいのかもしれません。「特にストレスもなく、学校も楽しんでいるようなので、朝起きられないのは甘えなのでしょうか」と相談に来る方もいますし、ある程度ご自身で調べてから来院し、「うちの子はODなのでしょうか?」と質問する方も増えていますね。

―受診する目安はありますか。

朝起きられず、学校を休んだ回数を目安にするのが良いでしょう。例えば、週に2〜3回ほど遅刻をしてしまうのであれば、一度起立性調節障害を疑ってみると良いでしょう。環境が変わった際に発症しやすいので、これまでなんともなかったのに、高校に進学してから症状が見られた場合など、この病気の可能性を考えてみてください。



―学校はどう対応しているのでしょうか。

学校でも、起立性調節障害について認識されるようになってきました。診断書を持っていくと、中学校は許諾されるようですが、高校は出席数が重視されるので、転校や留年、中退せざるを得ない子も多いようです。本来ならば、起立性調節障害で悩む子どもたちのライフスタイルにマッチする学校があれば良いのですが、大分県の場合は定時制高校かフリースクールという選択肢しかありません。今後、子どもの登校時間の改善など、検討しなければいけない事項は多いと感じています。

―病気が正しく認識されていない場合も多いのではありませんか。

診察の際、まずはどんな病気なのかを説明するのですが、「そんな病気があったなんて知らなかった」と驚く人がほとんどです。まずは、病気について理解してもらうため、起立性調節障害について分かりやすく書かれた関連する本を読むことをおすすめしています。この2〜3年でこの病気が浸透しましたが、以前もこの病気で悩んでいた子は多いでしょう。遅刻や欠席を繰り返していた子が、実は起立性調節障害が原因だったというケースも多いと思います。

「起立性調節障害」に正しい理解を

子どもに寄り添い、病気への理解を
気になる症状があればすぐに受診して

―起立性調節障害と診断されたあと、具体的にどのような治療が行われるのでしょうか。治療を続ければ治るのでしょうか。

1つ目は、血圧を上げる「昇圧薬」という薬を飲む投薬治療です。もう1つは、「朮甘湯 ( りょうけいじゅつかんとう」という漢方薬を使った治療方法もあり、当院もこの薬を処方するケースがあります。この漢方薬の効能は、血圧を上げる、めまい、酔う、パニック障害、動悸にも効果を発揮します。睡眠のリズムが崩れている子は、小学2年生でも飲める睡眠薬をプラスで使いながら治療を進めます。漢方医の間では、寝起きが悪く、夜に活動的になる体質のことを、夜行性のフクロウに例えて「フクロウ型体質」と呼び、漢方薬で体質改善を目指す治療を行っています。実際に久留米大学では「ふくろう外来」という名称で治療を行っていますよ。

―投薬治療以外にも、生活習慣改善で良化する可能性もありますか。

もちろん生活習慣の改善も大切ですが、いきなり生活習慣をガラッと変えることは難しいです。ODの子どもたちは、水分や塩分を摂りたがらない傾向にあります。体内の水分量が足りないので、十分な血圧を維持することができません。まずは、水分をたくさん摂るように指導しています。また、塩分には水分を体内に保持する効果があるので、塩分も意識的に取るようにしましょう。ただし、味の濃い食事を家族全員に提供すると、逆に大人が病気になってしまうので注意しましょう。また、起きるときはいきなり立ち上がるのではなく、まずは上体を起こし、2分から3分ほど静止し、少しずつ立ち上がります。7時半に家を出るなら、6時ぐらいから起きて、行動開始するまで時間をかけましょう。生活動作の改善を意識する方が良化が早い印象があります。その他にも、医学的に証明されていることではありませんが、自分の好きなことや趣味を、目覚めてすぐに活用してみるのも効果的。例えば、朝シャワーを浴びるようになったら起きれるようになった、好きな音楽を目覚ましに使ったら起きられるようになった子どももいます。自律神経は刺激だと考えています。身体がスイッチの入れ方を学習したら、交感神経と副交感神経が自然と切り替わるようになっていくでしょう。

―お子さんに起立性調節障害の症状が現れたとき、心がけるべきことはありますか。

無理に起こしたり、「頑張れ」や「サボるな」といった声かけは控えましょう。無理矢理起こして、服を着せて無理矢理外に出すようなことをしては逆に危険です。学校の近くまでは行けたものの、吐いてしまったという子もいます。学校にもしっかりお子さんの状況や症状を説明し、理解してもらうことも大切。この病気を知らない、理解しようとしない教育者がまだまだ多いのも現状です。学校や医療機関等と連携してお子さんのストレスを減らし、少しでも症状を軽減することから始めていきましょう。

「起立性調節障害」に正しい理解を

なかがわ柳通りクリニック
https://oita-nakagawa.jp/

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