2018.05.29
岡田久美子さん(株式会社はなはな 代表)
女性スタッフが約7割を占める介護職の現場では、働く女性が「仕事」と「家庭」を両立させることが課題のひとつにある。住宅型有料老人ホームを運営する「株式会社はなはな」では、時短勤務・育児休暇制度の充実、同施設の敷地内に託児所を設けるなど、ママのライフスタイルに寄り添う雇用に取り組んでいる。ママが長きにわたり、安心して働ける環境づくりを実現した代表の岡田久美子さんに、女性が活躍できる職場づくりで大切にしていることを伺った。
ー「はなはな」で働く介護職員は、男性と女性、どちらが多いですか?
全体の7割が女性スタッフです。男性スタッフも、もちろんいますが、介護業界は全体的に女性が多いと言われていますね。
ー介護の現場において、女性が多く活躍しているのはどうしてでしょう。
高齢化社会を迎え、介護事業が本格的に始まるまで、家族の介護は主婦が担うことが多かったんです。そういった方々の負担を減らし、社会全体で介護を担うために2000年にスタートしたのが「介護事業制度」。それまで主婦が行っていた介護の仕事のノウハウを活かし、介護のプロフェッショナルがサービスを届けることを目的とした制度です。介護において重要な、相手の気持ちに対する「共感力」が女性は高く、細かいところにも気が付くので、現場で活躍できるのではないでしょうか。
ー「共感力」というのは、介護される側の人の心に寄り添うということですか?
そうです。理屈ではなく、相手の心の中に入っていけるかどうかという、教科書やマニュアルでは学べない部分です。特に認知症の方を介護する場合は、担当者が「共感力」を持っていると、介護される側が落ち着いて行動してくれるんです。共感力の高いスタッフが夜勤を担当すると、それだけで、普段は落ち着かない入居者の方々でも安心して眠れるようですから、不思議ですよね。
ースタッフの「共感力」を磨くために、どのような取り組みをしていますか?
ベースになるのは介護の知識だと思っているので、介護福祉士などの資格取得や、認知症介護の研修へ参加するように伝えています。女性スタッフのなかには、家事、子育てをしながら働いている人も多いので、資格試験や研修などに取り組みやすいように、コミュニケーションを図りながら計画性を持って臨んでもらうようにしています。資格が無いと介護の現場で働けませんし、知識をつけることによって様々なケースに対処できるようになりますから。
ー「はなはな」の施設内では、高齢者のそばにスタッフが寄り添っている姿をよく見かけます。
私たちは「健康寿命を伸ばす」ことを大切に考えています。そのためにはリハビリが重要。施設内にも歩行訓練ができるように全長80mの廊下を作りました。また、転倒のリスクが無く、わずかな力でペダルが回る「足こぎ車椅子」を導入し、半身麻痺の方でも自分の力で好きなところへ行ける環境を整えています。また、ロボットスーツを取り入れた、最先端のリハビリも積極的に取り入れています。スタッフには、何もかも行うのではなく「寄り添う」という意識を持つようにアドバイスしています。介護は子育てと近い部分もあるかもしれませんね…勉強もスポーツも頑張るのは子どもたち自身、親は励ましたり、話を聞いたりしますよね。施設利用者に自分の力で動くことの喜び、生きがいを感じていただきくことがいちばんだと考えています。
ー女性スタッフが仕事と家庭を両立できるサポート体制はありますか?
育児休暇、産後休暇制度はもちろん、事業所内に保育所を併設し、働くママをサポートしています。結婚や子育てなどライフステージに応じて働き方が目まぐるしく変わる女性が、男性と同じように快適に働き、のびのびと活躍するための環境的な整備ですね。
ー子育て真っ最中のママスタッフも多いのですか?
そうですね。ママって本当に忙しいんですよ。子育てだけじゃなく、地域との関わりなどもありますし。そんなママたちを見ていて感心するのは、時間の使い方。子育てを経験すると、効率的な働き方ができるようになるんですよ。例えば、子どもが保育園から帰ってくるので時短勤務をしているママがいたとします。独身の頃は8時間フルで働いていましたが今は15時まで。そうなると時間の配分と仕事の段取りを考えるようになります。家庭生活のなかで、タイムマネジメント力が培われているんですね。働くママの強い武器だと思いますよ。
ー岡田さんご自身も子育てママの一人ですよね。
子どもが成長して親離れを迎えていますので、振り返りになりますが…私の場合は、専業主婦の時期もありましたが、仕事と子育てを両立している方が心のバランスが取れるみたいですね。ただ、仕事のことで頭がいっぱいになって「ママ、話聞いてないでしょ」と子どもから指摘されることもありましたが(笑)。
ー女性スタッフの方々のメンタル面のケアは、どのようにしていますか?
スタッフは一人ひとり、本当に家族のようです。もちろんプライベートの相談にも乗っています。昔は夫婦喧嘩を仲裁したこともあるんですよ(笑)。女性が働くためには旦那さん、お子さんの理解が必要ですし、子育てと仕事が両立できずに、退職してしまうケースもあります。そういったことを防ぐためには、ママのちいさな変化に気づくことが重要になります。特に若いママは、娘のように思えて放っておけないんですよね。働き始めたころは、茶髪でびっくりする服装で出社するようなスタッフが、育児休暇を経て立派なママになり、現場でもテキパキと仕事をこなしている。そんな成長を実感できるのも、大きな喜びです。彼女は2人目の子どもも欲しいと言っていますね。
ー育児休暇を取得すると現場のスタッフの人数が減ることもあるかと思いますが、その点についてはどのようにお考えですか?
そうですね。結婚して、出産や育児を理由に休職するスタッフは少なくありません。大事なのは、復職しやすいこと。そのためにも仕事より、家庭や子育てを優先して欲しいので、別のスタッフでカバーできる人員体制を整えています。仕事は1人で背負うものではないですし、誰が抜けても良いような仕組みを企業側が設ければいいだけですから。
ースタッフには、介護のプロとしてどういう風に成長して欲しいですか?
一つの分野に特化したプロフェッショナルになるのではなく、様々な分野で活躍するオールマイティな人材になって欲しいですね。主婦に例えると分かりやすい。掃除だけするのではなく、料理・洗濯・掃除を満遍なくこなさなくてはいけないでしょう。私は経営者ですが、現場に出た時は、布団干しやトイレ掃除もしますし、厨房で洗い物も手伝います。だから、厨房担当のスタッフにも掃除をお願いしたり、掃除担当のスタッフに厨房のお手伝いを…ということはよくありますね。
ー働く本人の気の持ち方で、いくらでも成長できますよね。これまでいろんな女性スタッフと接するなかで、向上心を持っている人や、仕事で嫌な思いをして踏ん張れる人の特徴は何ですか?
とにかくプラス思考で、愚痴ばかりを言わないこと。弱音を吐かず、悔しい気持ちを行動力に変えている人は、上司を追い越すほどの成長ができるなぁと感じています。働く女性たちにもそれぞれビジョンがあって、社長を目指す野心家もいれば、仕事と家庭の両立を目指すママもいるんです。どうすれば自分自身が幸せになれるのか?そこをしっかり考えることが大事だと思いますね。
ー最後にひとつ。岡田さんは、これからの社会における働き方について議論する行政の会合にも出席されていますが、その中の議題のひとつとして、女性が活躍できる社会づくりがあると思います。岡田さんの考えをお聞かせください。
女性…特にママの働きやすい環境づくりに関しては、働くママたちが立ち上がって声をあげる必要があると感じますね。そのためにはまず、ママたちがきちんと「社会で働くこと」への義務を果たしている必要があります。仕事で感じた嫌なこと、辛いことを投げ出すのではなく、きちんと結果が出るまで粘り強く取り組む。責任を果たしてこそ、意見に説得力が生まれます。だからこそ、私たち企業側は、仕事と家庭を両立しやすい環境を充実させていく努力を続けていくべきだと考えています。