2018.04.01
今回のママ:
植木あやさん・41歳・宮崎県出身・大分市在住
(小学校3年生・幼稚園年長さん・1歳の三児の母)
「子育て中がメリットになるママの働き方を創ろう!」と立ち上がったNPO法人「ママの働き方応援隊(以降、略して「ママハタ」)※1」。現在、全国で約2000人以上のママがメンバーになっている。現在8名のメンバーで運営している大分校の代表を勤める植木さんは、2男1女のお子さんの子育てをしながら、ママハタ大分校を切り盛りするパワフルなママ。
大分で自分らしく生きるママたちのこれまでを綴るインタビューシリーズ。
今回は「ママの働き方応援隊大分校」代表の植木あやさんのストーリー。
「こんにちは!」。末っ子の琳子(りこ)ちゃんを抱っこして、柔和な笑顔で迎えてくれた植木あやさん。
出身は宮崎県、別府の大学で幼児教育を学び、卒業後は大分市の児童養護施設に勤務し、結婚を機に退職。何らかの事情で親元から離れて暮らす、3歳から高校生の子供たちを預かる児童養護施設での11年間はとても大変だったと振り返る。
「『親でもないくせに!』と言う子どもたちがたくさんいました。親の愛情を充分に受けていないので、誰かとどこかで繋がっていたいという思いが強く、性に関しても早熟な子が多かった。当時の私はまだ子育ての経験がなかったので、情熱だけで子どもたちと向き合っていた。自分が子どもを産んでから『あの時、もっと私にもできることがあったんじゃないか…』という思いがどんどん強くなってきて、ずっと心残りでした」。
仕事を辞めてからは専業主婦だった植木さん。3人目を授かった時、先にママハタの活動をしていた北九州のお友達を通じてこの活動を知り「これだ!」と直感。出産と同時にママハタの大分校を立ち上げることに。児童養護施設を辞めてからずっと心に引っかかっていた気持ちと「いつかは社会の役に立ちたい…」という思いは揺らぐことなく、大分校立ち上げへの一切の迷いはなかった。「家庭を知らない子どもたちに、自分の未来を考えるチャンスを与えることができるかもしれない…と、まず施設の子どもたちのことを考えました」。
ママハタには「赤ちゃん先生プロジェクト」という活動がある。赤ちゃんとママが、親子で教育機関や高齢者施設、企業などを定期的に訪問し、赤ちゃんを通じて命の尊さや癒し、感動を共有しながら様々な人間教育を学んでもらおうというプログラムだ。大分校では大分市の下戸次小学校に訪問し、授業を行った。定期的に訪れることで、赤ちゃんの成長を身近に感じ喜んでくれる子どもたちも多かった。
「赤ちゃんに触れ、ママたちの経験を聞くことで、自分たちにもこんなに小さかった頃があったんだ、大切な存在なんだ…ということを感じてくれていると思います。何年かかってもいいので、大分全部の学校で赤ちゃん先生の授業ができるようになるといいなぁ…。いつかお父さんやお母さんになる大学生対象の授業も開いてみたいですね。赤ちゃんを産むということ、そしていつか自分が母や父になることのリアリティを少しでも感じてもらえる機会になれば」。これこそ、生きた『生教育』だと思う、と植木さん。命の誕生の奇跡、命の大切さを知ることで、性を知る。まだ実現はしていないが、働いていた児童養護施設で赤ちゃん授業を行い、このことを伝えたいと話してくれた。
植木さんの一日のスタートは朝5時。お弁当を作り、出勤の早いご主人、長男を小学校へ送り出し、次男を幼稚園へ。子どもたちが学校や幼稚園に行っている午前中に、人に会う約束やママハタの活動をこなして14時には幼稚園へお迎えに。その後も習い事の送迎にと、24時間があっという間の過密なスケジュールだけど、とても充実していると眩しい笑顔。
「子どもが寝た後に…と思うけど、末っ子が泣き出したりと、思う通りにはいかないのが現実(涙)。やりたいことがたくさんあって忙しいけれど、毎日が充実しています。個性豊かな大分校のメンバー8名と、あーでもない、こーでもないと言いながらイベントの企画を考えたり、チラシを作ったり。来年は、作家さんや企業も参加してもらうママハタ主催の大きなイベントをやりたいと思っています。『子どもがいても働けるよ!』って、私たちの働き方を発信していきたいです。末っ子ももう卒乳しましたが、おっぱいをあげられる蜜な時間もあっという間。子どもとの貴重な時間を大切にしながら、私たちなりの働き方をしていきたいです」。話していると、次から次へとやりたいことが溢れてくる。妊娠中や出産、産後の不安を抱える妊婦さん。初めての経験なら、なおさらだ。そんな女性たちを、経験者たちがアドバイスすることで少しでも解消できる場になればと「マタニティシェア会」を開催したいのだとか。
そしてその上にあるもっと大きな夢は、小さな子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで幅広い世代の誰もが気軽に集えるコミュニティを作ること。産後にうつになったママを見てきた植木さん。側から見て恵まれた環境でも、何人目の子どもの出産でも、誰でも産後うつになる可能性はあると声を上げる。幸い、周囲の人たちがそのママのSOSに気づけたが、SOSさえ発信できない孤立したママたちもたくさんいる。「産後ってご飯を食べる時間もなくて、赤ちゃんにとっては自分しかいないという、なんとなく社会から疎外されたような孤独な時間ですよね。周りに助けてくれる人がいたとしても、本人もうつ状態だということを気づかない人もいる。だから、おじいちゃん、おばあちゃん、子供たち、大人たち、世代を超えたいろんな人が集える場所を作りたい。そこに行けば誰かがいて話を聞いてくれるし、寝泊まりもできる。そんなざっくばらんなコミュニティーをいつか作りたいです!」。
大分のママは、働くだけじゃなく、趣味を生かしたり、勉強熱心だったりと元気な人が多いと植木さん。「子育てしながら一歩踏み出すのには勇気がいるけど、その状況も楽しめる環境を自分たちで作っていきましょう!」と、大分のママたちに力強いエールを送ってくれた。
※1 NPO法人ママの働き方応援隊
0~3歳の赤ちゃんとその母親が、教育機関や高齢者施設に出向き、赤ちゃんとママの力を生かした授業を行う「赤ちゃん先生クラス」、パートナー企業の販促活動などママのネットワーク力を使った「お仕事倶楽部」、子連れで学べる無料の職業訓練校の開催など、子育て中だからこそできる活動を行っている。
この記事のライター:安達博子
「3人の子育てをしながら、次から次へと湧き出る“やりたいことを”実現するため、積極的に活動している植木さん。「赤ちゃんは泣くものだよ」と笑顔になってくれる優しい社会になるといいなぁと話してくれました。「家ではお父さんが一番!」という、古き良き時代の家訓も素敵なご家族でした。“子供がいるから出来ない”のではなく、“子供がいるからこそ出来る”という働き方が、世の中にどんどん広がっていくといいなぁと思いました」