2018.08.31
今回のママ:
河野咲姫(さき)さん・31歳・大分市出身・大分市在住
(3歳と1歳の二児の母)
今年で創刊8年目を迎え、大分の子育て情報を得るには欠かせない情報マガジン「ワイヤーママおおいた」。この冊子の営業担当として「ワイヤーママ」を支えている河野さん。二人のお子さんの子育てをしながら、大好きな仕事に打ち込む姿はキラキラしている。しかし、仕事復帰を果たすまでには、ママが就職するということの厳しさといくつものハードルを乗り越えなければならなかった。
大分で自分らしく生きるママたちのこれまでを綴るインタビューシリーズ。
今回は、月刊子育て支援マガジン「ワイヤーママおおいた」の営業として仕事に励むサラリーママ・河野咲姫さんのストーリー。
いつの頃から、“保活”という言葉が当たり前に使われるようになったんだろう…。私は子どもを保育所に入れる機会がなかったので、正直なところ、この言葉を初めて聞いた時にピンとくるまで時間がかかった。保活=子どもを保育所に入れるために保護者が行う活動のこと。保育所の希望者が定員を上回り、入所できない待機児童が多数いるため、入所選考の際に有利になるように就労条件を変更したり、入所しやすい保育所の近くに引っ越しをしたり涙ぐましい努力をしている保護者も多い。
所詮、都会での話だと思っている人は多いかもしれない。しかし私たちが住む大分市の待機児童問題は結構深刻だったようだ。ここ数年、大分市は認可保育所に入れない待機児童の多さが全国有数ということが指摘されていた。2018年度は定員を大幅拡大するなどして対策を強化したことで、待機児童数を激減することができ、少し解消できたということなのだが。今回取材させてもらった河野さんは、その煽りを受け、再就職でかなり苦労したその一人。ママが就活することの難しさを体験し悩む時期もあった。これが、大分で働きたいと思っているママたちの現実なのかもしれない。
短大卒業後、「ホットペッパー」を運営する株式会社リクルートライフスタイルに入社し、美容関係の営業を担当する職に就き、6年半働いた河野さん。入社6年目で結婚。契約更新の時期を迎え、全国への転勤の可能性があることで辞職を決意した。その矢先に妊娠が判明。
「仕事をしている間に入籍し、その後妊娠が分かったんですが、実は一人目は流産してしまって…。その経験があったことも大きいですが、ちょうど契約更新の時期に妊娠も判明して、このタイミングで仕事がなくなるのも、私の人生の流れなのかなと思いました。だからマイナスな感じではなく、もちろん不安が大きかったですが、私の中では嬉しい退職となりました」。その後、28歳で長女を出産。ハードな仕事をこなしていた日々とは一転、専業主婦として子育てに向き合う毎日を送る。「出産前まではがっつり働いていたから、そのギャップに戸惑って、状況を受け入れられなかったのかもしれません。子どもと二人きりで長い時間を過ごす専業ママの毎日に、よくキーッ!ってなって、勝手にイライラしてましたね。喋る人もいないし、孤独というか、取り残されている気分で…。旦那に対しても『あんたは自由な時間があっていいよね!』って八つ当たりしたり。もともと友達も多い方じゃないし、サークルなどに参加するのも苦手だったので積極的に外に出るタイプでもなかったんです。子どもは、よく寝る育てやすい子だったのでそれに対してのストレスはなかったんですが、多分自分自身の心の問題だったんでしょうね。今考えると、なんであんなにストレス抱えてたんだろうって思います」。
出産後も仕事はしたいと思っていた河野さん。離婚をして女手ひとつで3人姉弟を育て、大学の学費を一人で工面していた母親の姿を見ていたからこそ、その考えは幼い頃から根付いていた。「男の人って、いつどうなるかわからないでしょ?(笑)。母親を見て育ったのでその感覚は昔から染み付いてたんだと思います。子どもを産んでも仕事はするものだと自然と思っていました。だから、5月に長女を出産し、年末までに仕事を決めるぞ!と意気込んで就活を始めました。でも、ママの再就職の壁は、想像以上に厚かったですね。新年度の4月から保育所に子どもを預けたいと思った場合、前年の年末までには仕事を決めて保育所に審査のための書類を提出しないといけなかったんです。なので、前職の営業の経験を活かした営業職をハローワークや求人誌で探し、10社くらい受けたんですけど全滅でした…。面接まで進めたのは1件。その他は、電話や履歴書で落とされる感じでした。例えば、“時短勤務あり”と表記された条件の良さそうなところを見つけても、色々と話を聞いてみると、結局1年ぐらい働かないと時短勤務を認めてもらえなかったりと、求人募集している会社自体も、その制度を理解していなかったようでした。ママが働くことに対しての理解がまだまだなんだなと痛感しました」。土日は休みで勤務時間は17時まで。残業はほぼ不可。しかも保育園はまだ決まっていません。そんな現状を正直に履歴書に書いていた河野さん。「だけど、企業側の気持ちになったら、こんな条件の人は採用できませんよね(笑)こんなに厳しいものかと痛感しました」。
就活の成果はなく、ことごとく玉砕状態だったある日、近くのスーパーに置かれたフリーペーパー「ワイヤーママ」をたまたま手に取った。以前から設置されていたそうだが、それまでは気にすることはなかった。ふと冊子を開くと「一緒に働きませんか?」という求人情報が。家から勤務地が近かったこと、授け先の保育所を探していたエリア内に勤務地があることなど、河野さんが働くにはこの上なくいい条件が揃っていた。「ここしかない!」と直感し、就活再開。営業経験を持つ河野さんの即戦力に期待した会社側は、河野さんの採用を決めた。市役所への提出書類を作成してくれた社長さんのおかげで申請期限が迫る年末ぎりぎりに申請でき、無事に保育所への入所が決まる。「保育所入所の選考は毎月あるんですが、書類を提出した後、1月、2月、3月は選考から落ちてしまいました。でも、4ヶ月目のトライでやっと4月に入所決定の通知がきました。私は認可保育所にこだわったので苦労したのかもしれませんが、社長があの時、市役所に申請する書類を書いてくれなかったら、永遠に就職できなかったかもしれません」。
ここで社会の大きな矛盾を感じた。人材を求めている企業側は、保育所へ入所する確約がなければ採用は無理だと言う。しかし、保育所側としては、就職が決まらなければ保育所への受け入れはできないという。まさに、鶏が先か、卵が先か、だ。こんな状況で、ママ達はどうやったら就職できるのか? 「私の周りのお友達もそういう状況ですね。保育所を決めないと就活できないから、まずは保活。だけど、半年経っても保育所が決まらないというのは当たり前の状況です。知人の紹介や伝手で就職し、それから再び本来の就活をしたという人も聞いたことがあります。行政の連結もうまく繋がってない感じがするし、世の中のシステムの矛盾を感じます」。就活に悩む、ママたちを代表した正直な気持ちだと思う。見えないトンネルから抜け出すにはどうしたら良いのか?と悩む現代のママ達のリアルな姿だ。
人材を求める企業。そして、仕事をしたいママたち。このマッチングがうまく噛み合えば、埋もれているママたちのキャリアを世の中に活かすことができるのに。最近、そのママたちの救世主的存在として小規模の保育園も増えている。保育所が決まるまでの場所として、就活に悩むママたちにとっては、救いの存在だろう。どこから手をつけたらいいのか? 先の見えないトンネルは、これからもまだまだ続くのだろうか…。
これからやってみたいことや目標を河野さんに聞いてみた。「先のこと…というより、今がとても充実しているので、この状態で私が頑張れる範囲で頑張りたいです。できる限り全力だけど、無理はせずに。職場にはママが多くて、お互い様の精神で助け合いながら仕事ができているし、私にとっては最先端の職場だと思っています。ママ業もしながら仕事をしているので、とにかくみんな多忙です。もちろん最低限のミーティングはありますが、会議という時間をわざわざ作らず、みんなでお昼ご飯食べながらあれがいいこれがいいと普段の中で今後の企画を考えたりします。時間を無駄にせず凝縮して仕事をしてますね。子どもの体調不良とかで、明日誰が休むかわからないので(笑)」。
入社後、2人目を出産。2人の子育てに仕事に家事に育児。。。そんな悪戦苦闘する毎日ですが、河野さんにとって最強のサポーターはご主人。仕事を始めて河野さんの心にも余裕ができたことで、より夫婦で協力できる体制が整ったように感じます。以前もご主人が家事や子育てに協力的でしたが、前にも増して手助けしてくれるようになりました。朝は洗濯物を干し、子どもの食事や着替えの手伝い。私は、弁当や片付け、晩御飯の仕込み等を終わらせます。休日は子ども達との時間を大切にしてくれたりと、ご主人にとても感謝していた河野さん。「職場環境もそうですけど、主人も協力してくれるし、本当に恵まれた環境だと思います。子育てと仕事をこなすのは正直疲れますが、私、仕事してる時が一番リラックスしてるかな(笑)。子どもたちを保育所に送って、出社してデスクに座った時『やっと保育所に行ったー。今から自分の時間だー!』ってホッとします。職場のみんなもそうみたいですね(笑)。私にとって、働くことは間違いなく活力になっていると思います」。
身の丈にあった環境を自分で切り拓き、今の自分を大切にしている河野さん。就活という長いトンネルから抜け出た先に、充実した毎日があった。自分の直感を信じて行動できるか?できないか? それもまた才能かもしれない。うまくいかない日々を誰かのせいにしたく気持ちも、自分ではどうにもできない不可抗力もあることもよく分かる。でも、行動さえすれば、少しだけ前に進んで、一気に現状を打破するチャンスが訪れるかもしれない。河野さんには『勇気を持って行動することの大切さを』を改めて教えてもらった気がする。
ワイヤーママおおいた
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この記事のライター:安達博子
サークルは苦手。カフェより居酒屋で一杯。さっぱりと淡々と、でも仕事には熱い河野さん。同じ人種だと確信しました(笑)。子どもとの時間が一番幸せです!と言うことが美学とされる風潮の世の中で(確かに子どもとの時間は幸せだけど)、きっぱりと「仕事をしている時が一番リラックスできる!」と言い切れるのが、またカッコいいのです。そうです。子どもにとってはママだけど、子どもが巣立ったあとは、自分の人生を生きていかなければならないんですもんね。自分を大切にできる人は、家族も他人も大切にできる人です。河野さんが言ってた「今のできる限りで全力だけど、無理はしない」という言葉がとても印象的で、簡単そうだけど実は難しいバランス感覚を私も保ちたいなと思いました。ドラマ「相棒」と映画の名作「釣りバカ日誌」をこよなく愛する、お茶目な一面もとても素敵なママでした」