講師プロフィール | 林田香織さん
お茶の水大学大学院修了。専門は家族社会学・ジェンダー社会科学。日米の教育機関において日本語教育に従事。8年の在米期間を経て、2008年に帰国後、ロジカル・ペアレンティングLLP(現ワンダライフLLP)を設立。自治体や企業において、育休推進セミナー、復職セミナー、キャリアセミナー、サイバーシティ・エクイティ&インクルージョン推進セミナーなど多数登壇。管理職向けセミナーを通じて、上司と部下の橋渡しを行う。日本最大の父親支援団体「NPO法人ファザーリング・ジャパン」理事、厚生労働省委員、自治体委員などを務める。
「自分らしさ」の盲点
社会的背景の影響を認識する
まず林田さんが自己紹介し、「自身のライフミッションは、皆さんが自分らしく働き、生きていくための、職場と家庭の環境整備、毎日を楽しくするアイデアや負担を軽くするヒントの提供です」と始めました。
ちょうど前日、日本のジェンダーギャップ指数が過去最低の125位(146カ国中)だったと報道されたばかり。女性の方が多い生産年齢人口に対し、政治や会社など、リーダー的なポジションを占める女性の割合が極端に低い現状に対し、「働く上での性差を埋めていくことが重要」と語ります。
林田さんは、女性管理職が少ない現状を氷山に例えながら、「男性=仕事、女性=家事のような昔からの価値観、長時間労働や仕事上での性差などの社会の構造・仕組み、家庭のケアが女性に偏り、男性が仕事中心になりがちな行動パターンが影響しています。女性管理職を増やすには、私たちの価値観、社会の仕組みや行動パターンなど、問題の根本を変えていかなければいけません」と説きます。
実際に、世界でもトップレベルの日本の育児休業制度ですが、取得しているのはほぼ女性です。しかし、現在はさまざまな家族の形があり、夫婦で仕事と家事を分業するのではなく、協業体制が求められています。「2022年の法改正で父親が育休を取りやすくなったことで、“行動パターン”を変えることにつながりました」。
さらに日本の社会的背景は、女性活躍だけでなく、個々の希望と成長を実現させるウェルビーイングにシフトしています。「育児以外にも、看護や介護、通学、通院などの制約がある人が混在する職場では、管理職の役割も変化しています。管理職のみがリーダーシップを発揮するのではなく、人の意見を聞きながら提案する“提案型管理職“と、それをみんなでサポートするチームが重要です」と続けます。
スタッフ同士が助け合うことで制約がある人含め皆が活躍できる会社へ生まれ変わることができます。お互いを理解し合い、協力しながら個々とチームが良い状態でいるための考えとして、Diversity(多様性)とEquity(公平性)、Inclusion(包括性)を合わせた環境整備の「DE&I 」を紹介しました。
「チャレンジしたい気持ちに対し、『自分は無理だ』と思ったり、周りに『サポートして欲しい』と言えないのは、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)の影響です。『本当にそう思っているのか?』と自身に問いかける丁寧な対話を大切にしてください。インプットを変えてみることでも、思い込みが少しコントロールできると思います。みんなで協力して働く環境を創ることで、仕事にやりがいや意義を感じながら働き続けることができます」。
働くとは?キャリアとは?
これからの自分軸を考える
続いては、働くこと、キャリアについてについて全員で考えました。8種類のスライドを見ながら、「働きやすさ」や「働きがい」、「働く喜び」など、各項目について考え、気になったキーワードについて、グループで共有し合いました。
「気になるキーワードを掘り下げていくことが重要です。モヤモヤするキーワードがあれば、その真逆の自分の状態を想像してみると、その原因がクリアになります。不安に思うことや分からないことはうやむやにせず、どうすれば自分が納得できるかを考えてみてください。もし自分で掘り下げられなければ、周りの人に相談してみましょう」と説明しました。
自分の能力を発揮していくには、自分の気持ちを明確にし、スタッフ同士しっかりとコミュニケーションがポイント。「自身の希望を整理し、説明する“取説力”、ケアスキルを獲得し共有する“相補力”、スタッフや家族との“連携力”、この3つの力により、家族のケアと仕事を両立することができます」と林田さんは続けます。
場でのコミュニケーションでは、“できる”と“できない”をセットで考え、「こうしたらできる」を提案する「現状説明」と、今後やってみたいこと、学びたいことを伝える「希望説明」、優先順位を確認し、目標を設定して相談することをテニスに例えた「壁打ち」がポイント。林田さんはこれらを“現希(げんき)説明&壁打ち”と呼びます。「上司がこの方法で成長を後押しする組織は、コミュニケーション力がどんどん上がります」と林田さん。
また、「自分らしいキャリアを整理する3つのポイントは、大切にしたい価値観や姿勢=マインド、培ってきた知識や工夫(スキル)、相談できる人や頼れる友人や家族、活用可能なもの(サポーター)です。職場で人に相談や頼ることが難しい場合は、お互いがお互いのサポーターになれるよう改善し、自分の価値観やスキルをどんどん増やしていきましょう」とメッセージを送り、講演会を締めくくりました。
セミナー後の交流タイムでは、グループに分かれ、名刺交換をしながら自己紹介。今日の感想などを語り合い、親睦を深めていました。今回のセミナーを通して、参加者全員が“働く”について見つめ直し、“置かれている環境を自己成長のために活かすにはどうすればよいのか”を考えるきっかけになりました。
メッセージ
今回はいろんな年代の方が参加し、さまざまな意見が皆さんの気づきやアドバイスにつながり、刺激になっていたようで嬉しかったです。仕事をするうえでコミュニケーションは不可欠ですが、コミュニケーションを取ることが苦手な方もいるかもしれません。しかし、仕事中の会話など、なにかの“ついで”に自分の考えていることを話したり相談してみると、徐々に「本音トーク」をできる関係性が築けます。会話は練習しないとできません。苦手でも、意識して会話をしたり、相手に合わせて少しチューニングしたりすると話せるテーマが増え、話しにくかったことも話せるようになります。会話をすることでテーマの可動域を広げるのは、ストレッチと一緒ですね。実際に、この春から復職して、育児と仕事の両立に悩み奮闘している人がいるでしょう。不安なのは皆同じです。安心してください。悩んだ時は、少し自分のルーティーンを変えてみましょう。通勤手段を車から電車に変えるだけでも、小さな変化が生まれると思いますよ。